Takahashi CPA & AI Lab公認会計士事務所

2026/5/22

CFOを採用するか外部に委託するか — 二者択一の誤り

「CFOが欲しい」と考えた社長の多くは、すぐに二者択一を迫られる。優秀な人材を採用するか、外部のCFO顧問に委託するか。しかし、この問いの立て方自体が間違っている。採用と外部委託は「どちらを選ぶか」の選択肢ではなく、そもそも解くべき課題が違う。年商1億円から30億円のSaaS企業で、この誤解が原因で半年以上の時間を無駄にしているケースを何度も見てきた。

この記事のポイント

  • 採用と外部委託は対立する選択肢ではない。採用は「内部統制と日次の財務運用」を担い、外部委託は「戦略設計・外部対応・意思決定の加速」を担う。別の機能を別の手段で調達するのが正しい整理。
  • ARR別に最適な組み合わせが変わる。ARR1〜3億円は外部のみ、3〜10億円は外部+経理採用、10〜30億円は外部+社内CFO採用の併用が費用対効果で優れる。
  • 外部委託で即座に解ける課題が3つある。銀行対応・資金調達・管理会計の構築は、社内CFOがいても外部の知見が不要にはならない。

二者択一は誤り — 採用と外部は別の機能

社内CFOの採用と外部CFO顧問の委託を「同じ役割を誰にやらせるか」と捉えると、比較検討のフレームが破綻する。この2つは組織の中で果たす機能が根本的に異なる。

社内CFOが担うべき機能は、日次・週次の財務運用だ。入出金の承認、経費精算の管理、月次決算のクローズ、税務申告の進行管理、従業員の経理チームのマネジメント。これらは毎日オフィスにいて、社内の業務フローに深く入り込んでいないと回らない。年商5億円の企業であれば、経理担当3〜5名を束ねる存在として、月額120〜180万円の人件費をかける価値がある。

外部CFO顧問が担う機能は、社長の意思決定を加速させることだ。資金調達のストラテジー設計、銀行との融資交渉、投資家向け資料の作成、セグメント別損益の構築、M&Aの評価。これらは月に数回の密度で十分だが、その数回に高度な専門性が求められる。外部委託の費用は月額30〜80万円が相場で、社内採用の半額以下で戦略機能を調達できる。

念のため補足する。年商3億円以下の企業で「フルタイムの社内CFO」を採用しようとすると、月額100万円以上の人件費に対して、その能力を活かす仕事量が足りない。戦略的な財務課題が月に数回しか発生しない規模では、CFOの8割の時間が経理業務に充てられ、本来の役割が果たされない。採用したCFO自身も「やることが経理と変わらない」と不満を抱え、1年以内に離職するケースが多い。

なぜ「どちらか」で考えたくなるのか

社長が二者択一に陥る理由は2つある。1つ目は、CFOという役割を「財務の責任者」という単一の機能として捉えていること。2つ目は、外部委託の費用を「人件費の代替」として比較していること。しかし正しい比較は「何を社内で持ち、何を外部から調達するか」という機能単位での検討だ。人事で「採用担当者を雇ぶか、リクルートエージェントを使うか」と考えるのと同じで、両方を使うのが当然の企業が多い。


ARR別の最適配置 — 3つのフェーズ

年商(ARR)の規模によって、社内に持つべき財務機能と外部に委託すべき機能の組み合わせが変わる。以下の3フェーズで整理する。

ARR1〜3億円: 外部委託のみ

この規模の企業では、経理は代表の補佐または1〜2名の担当者で回る。月次決算、税務申告、入出金管理は既存の体制で対応できる。ここでCFOを採用しても、戦略的財務業務の発生頻度が月に1〜2回しかなく、CFOの稼働率が著しく下がる。

外部CFO顧問を月2〜4回(月額30〜50万円)で活用し、以下に絞って依頼する。

  • 四半期ごとの資金繰り計画の更新と、ランウェイ12ヶ月を下回る際の早期警告
  • 銀行向けの事業計画書の年1回の更新と、メインバンクとの面談への同席
  • 予実管理のフォーマット設計と、月次での着地予測のレビュー

年商2億円のAIスタートアップの例を出す。同社はCFO採用を半年間検討した末に、外部CFO顧問(月額40万円・月4回)に切り替えた。結果として、銀行からの追加融資8000万円を3ヶ月で確保し、同時に月次の資金繰り予測の精度が月次売上の3%以内に改善した。CFO採用の予算(月額120万円)を開発人材の採用に回すことができた。

ARR3〜10億円: 外部委託+経理責任者採用

ARR3億円を超えると、経理業務の量が既存の体制では処理しきれなくなる。従業員数が30〜80名に達し、給与計算、経費精算、複数プロダクトの収益管理が毎日の業務として発生する。ここで必要なのは「CFO」ではなく「経理チームを束ねる責任者」だ。月額60〜90万円で経理経験5年以上の人材を採用し、日次・週次の財務運用を任せる。

外部CFO顧問は継続し、役割をシフトさせる。

  • 月次の管理会計レビュー(セグメント別損益、顧客別LTV、CAC回収期間の追跡)
  • 資金調達の実行支援(デット・エクイティ双方の検討、条件交渉への同席)
  • 経営陣向けの月次レポートの設計と、意思決定に必要な分析の提供

年商7億円のBPaaS企業では、経理責任者(月額75万円)と外部CFO顧問(月額60万円)を組み合わせた。従来のCFO採用計画では月額150万円以上を見込んでいたが、機能別の最適配置で月額135万円に抑えつつ、戦略的財務機能の質を維持した。

ARR10〜30億円: 外部委託+社内CFOの併用

ARR10億円を超えると、社内CFOを採用する合理的な理由が生まれる。日常的な財務運用の規模が大きく、管理会計の更新頻度が週次になり、投資家・銀行・監査法人との対応が常時発生する。ここでは月額150〜250万円で実務経験のあるCFOを採用し、社内の財務体制を固める。

ただし、このフェーズでも外部CFO顧問の併用を推奨する。理由は3つある。

  • 客観性の確保。社内CFOは社長との関係性や組織内の力学から、完全にフラットな助言を提供できない場面がある。外部顧問は利害がなく、データに基づいた率直な指摘ができる。
  • 専門領域の補完。資金調達のストラクチャリング、M&Aのバリュエーション、国際税務など、常時発生しないが高度な専門性が求められる領域を、外部の知見でカバーする。
  • 社内CFOの育成。年商10億円台で採用するCFOは、必ずしも年商30億円以上の経験を持っているわけではない。外部顧問がメンターとして機能し、社内CFOの成長を加速させる。

外部委託で解く3つの課題

ARRの規模に関わらず、外部CFO顧問に依頼すべき課題が3つある。これらは社内CFOがいても、外部の知見とネットワークが不可欠な領域だ。

1. 銀行対応

非上場企業の資金調達の主戦場は、依然として銀行だ。しかし銀行対応は「行って話してくる」以上の準備が必要になる。融資担当者が審査部に通すために必要な情報は、事業計画書、資金繰り表、過去3期の決算書、そして経営者の熱量を数値で裏付ける管理会計データだ。

外部CFO顧問が銀行対応で提供する価値は、次の3点にある。

  • 銀行が評価する指標(自己資本比率、インタレストカバレッジレシオ、EBITDAマージン)を事前に最適化し、申込時のスコアを上げる
  • 融資担当者との面談に同席し、質問に対して財務データを即座に回答する。社長単独での面談では「後で確認します」になりがちな質問を、その場で処理する
  • 複数行との同時交渉を管理し、最も条件の良いスキーム(長期固定、ステップダウン、アメニティローン等)を選択する

年商4億円のSaaS企業が、外部CFO顧問の銀行対応支援で得た成果を示す。当初メインバンク1行から提案された限度額1.5億円(変動金利)の条件を、3行同時交渉の結果、限度額2.5億円(固定金利・5年)に引き上げた。外部顧問の費用(年間480万円)に対して、金利差と限度額増で得たキャッシュメリットは年間700万円以上だった。

2. 資金調達

デットファイナンス(銀行融資、デットファイナンスファンド)とエクイティファイナンス(VC、PE、エンジェル)の選択は、企業の成長戦略と密接に絡む。年商5億円で成長率40%のSaaS企業であれば、エクイティによる資金調達が選択肢に入る。逆に年商8億円で成長率15%の企業であれば、デットファイナンスが現実的な道になる。

外部CFO顧問は、この判断を数値で裏付ける。

  • 現在のバリュエーションと、各調達手段がもたらす希薄化(ダイリューション)のシミュレーション
  • 調達後のランウェイ延伸と、次のマイルストーン到達に必要な資金の逆算
  • 投資家向けの資料(ピッチデック、財務モデル、データルームの整備)の作成支援

特にエクイティ調達の場合、社長単独で投資家と交渉すると、「出せる条件」より「提示される条件」で話が進む。外部CFO顧問が財務モデルを用意し、「この条件なら受諾できる、これを下回るなら別の手段を選ぶ」という明確な基準を持って交渉に臨めるかどうかが、調達条件の善し悪しを大きく左右する。

3. 管理会計の構築

決算書を作る財務会計と、経営判断に使う管理会計は別物だ。年商3億円以下の企業の多くは、管理会計が存在しない。月次の損益計算書はあるが、それは「何が起きたか」の記録であって、「何をするべきか」の指針ではない。

管理会計の構築で外部CFO顧問が提供するのは、次の設計と運用だ。

  • セグメント別(プロダクト別・顧客規模別・チャネル別)の損益構造の可視化
  • LTV、CAC回収期間、NRR、Gross Marginの4指標を月次で追跡するダッシュボードの設計
  • 予算編成プロセスの設計(トップダウン目標とボトムアップ予測の統合、年次予算から月次着地への分解)

年商6億円のAI企業の事例を紹介する。同社は外部CFO顧問と3ヶ月かけて管理会計を構築した。結果として、従来「全体で黒字だから問題ない」と見えていた収益構造の中に、エンタープライズ向けプロダクトのGross Marginが35%に落ち込んでいることが判明した。インフラコストの按分方法を見直し、価格改定を実行したことで、6ヶ月後に同セグメントのGross Marginが58%に改善した。


今月から判断するための4つの基準

採用か外部委託かの議論を進める前に、自社の現状を次の4つの基準で確認する。この確認は今月中に完了させることができる。

  • 直近6ヶ月のキャッシュフロー予測の精度を確認する。月次の実際のキャッシュポジションと、1ヶ月前に予測した値の乖離が5%を超えている場合、外部CFO顧問による資金繰り管理の導入が先決だ。社内CFOを採用しても、この精度を即座に改善できるとは限らない。外部の経験値で効率的に改善すべき領域。
  • 銀行との次回面談の準備状況を確認する。メインバンクとの面談が3ヶ月以内に予定されている場合、その準備を外部CFO顧問に依頼する。事業計画書の更新、資金繰り表の再作成、審査指標の事前計算——これらを社内だけで準備すると2〜3週間かかる。外部のノウハウがあれば1週間で完了する。
  • 管理会計データの有無を確認する。「セグメント別損益」「顧客別LTV」「月次のCAC回収期間」の3つを、今すぐ手元のデータから再現できるか。1つでも再現できない場合、管理会計の構築が未完了であり、外部CFO顧問による設計支援を優先すべきだ。
  • 社内の経理業務量を確認する。経理担当者の残業が月40時間を超えている、または月次決算のクローズに営業日で10日以上かかっている場合、社内の経理体制の強化が先だ。この課題に対しては、CFO採用よりも経理責任者または経理担当者の追加採用が直接的な解決策になる。

この4つの基準で「外部委託が優先すべき課題」が2つ以上あれば、まず外部CFO顧問の活用から始める。社内CFOの採用は、その後3〜6ヶ月かけて進めればよい。採用と外部委託は同時に走らせることで、社内体制の構築中も戦略的財務機能を止めない設計になる。

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