Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2025/1/27

宇宙産業の未来:国内外の動向、日本の課題と革新への道

はじめに

近年、宇宙産業はかつての国家主導型から民間主導へと大きく変貌を遂げています。この変化は、技術の進歩、民間企業の参入、そして宇宙利用の多様化によって加速されています。世界中で宇宙産業への関心が高まる中、日本もその波に乗り遅れることなく、独自の強みを活かした発展を目指す必要があります。しかし、現状を分析すると、いくつかの課題が浮き彫りになり、これらの課題を克服するための具体的な取り組みが求められています。

本記事では、経済産業省が発表した資料に基づき、国内外の宇宙産業の動向を詳細に分析し、日本が直面する課題と、その解決に向けた具体的なアプローチを提示します。さらに、今後の展望と読者へのアドバイスを交えながら、日本が宇宙産業でどのように競争力を高め、持続的な成長を遂げていくべきかを考察していきます。

現状分析

宇宙開発のトレンド:官から民へ

冷戦時代以降、技術の民間開放が進み、宇宙開発の中心は官から民へとシフトしています。ロケット開発ではSpaceXのような民間企業が台頭し、衛星分野でも商用衛星の利用が拡大しています。月探査や宇宙ステーションといった分野でも民間企業の参入が見られるようになり、宇宙開発は「Commercialization(民間市場の創出)」と「Privatization(官が民をサービス調達)」という二つの大きな流れに沿って進化しています。

世界の宇宙産業の市場規模

現在、世界の宇宙産業の市場規模は約54兆円に達しており、その内訳を見ると、政府予算が約4分の1を占めるのに対し、民間衛星や打ち上げ関連が約4分の3を占めています。このことから、宇宙産業が民間主導で成長していることがわかります。また、モルガン・スタンレーの予測によると、世界の宇宙産業の市場規模は2040年までに約140兆円に達するとされており、今後20年間で約3倍の市場規模になることが見込まれています。

市場の内訳としては、民間衛星サービスが最も大きく、次いで衛星用地上機器、政府の宇宙予算(宇宙科学・探査等)、宇宙輸送、衛星製造と続いています。宇宙技術戦略では、市場を「輸送」「衛星」「宇宙科学・探査」の3分野に分類しており、各分野での技術革新と市場拡大が期待されています。

日本の宇宙産業エコシステム

日本の宇宙開発は、長年、大手重工・電機メーカーが中心でしたが、近年、大学発のベンチャー企業が約100社も誕生しています。 現在の市場規模は約4兆円ですが、政府は2030年代早期に市場規模を倍増させ、約8兆円にすることを目標としています。企業数は120社を超え、多種多様な業種が参入しています。また、50年以上にわたる航空宇宙技術の蓄積があり、中小企業も多数参画しています。

資金面では、累計1,500億円を超える投資がスタートアップ企業に集まっており、投資家や金融機関の関心も高まっています。宇宙開発を積極的に推進する政策も実施されており、内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、防衛省、環境省、農林水産省、JAXAなど、多くの省庁が関与しています。

ロケット打ち上げ数の推移

世界のロケット打ち上げ数は増加傾向にあり、2022年には過去最大の178回を記録しました。特に米国ではSpaceXなどの民間企業が打ち上げ数を牽引しており、2023年にはSpaceXだけで98回の打ち上げを実施しています。中国も長征シリーズを中心に、複数の民間企業がロケット打ち上げに参入しており、打ち上げ数を増加させています。

ロケット打ち上げ価格は低減傾向にあり、2000年代までは10,000USD/キロ水準でしたが、SpaceXのFalcon9は2,900USD/キロという大幅なコスト削減を実現しました。打ち上げ価格の低減により、宇宙へのアクセスが拡大しています。

小型衛星コンステレーションの台頭

近年、小型衛星コンステレーションが急速に普及しています。これは、安価な小型衛星を小型ロケットで大量に打ち上げ、それらを一体的に運用することで、データの取得量や通信量を増大させることができるためです。また、小型衛星は失敗が許容されやすく、高頻度でアジャイルな開発・実証を繰り返すことができるため、信頼性と価格のバランスを取りながら、高度な機能・性能を段階的に実現できます。

小型衛星コンステレーションは、ミサイル防衛(赤外線観測)、災害・事故状況把握(レーダ観測)、全球インターネット網(通信)など、さまざまな用途で活用されています。従来の衛星と比較して、重量が軽く、価格が安く、納期が短いため、多くの企業が参入しています。また、ロシアによるウクライナ侵略では、欧米の商業衛星群が安全保障用途で活用され、その有用性が再認識されました。

2022年には、打ち上げられた衛星の96%が600kg以下の小型衛星であり、特に商業衛星の割合が増加しています。スターリンクとワンウェブの打ち上げ数が2020年から激増しており、2022年には全体の7割以上を占めています。衛星の運用者別に見ると、商業衛星が全体の約6割を占めており、通信衛星がその大半を占めています。

通信衛星市場の変遷

通信衛星市場では、高速・大容量化のニーズに応えるため、静止軌道から低軌道への移行が進んでいます。SpaceX、OneWeb、Amazonなどの企業が、数百機から数万機規模のメガコンステレーションを構築しており、SpaceXは既に5,000機以上を軌道上に配置しています。また、より低速の通信衛星ビジネスでは、数十kg程度の衛星を数十機から数百機程度配置するモデルも登場し、多くの企業が参入しています。光通信技術も進化しており、高速・大容量・セキュアな通信のニーズに対応するため、低軌道衛星間での光通信技術の導入が進められています。

地球観測衛星の重要性

気候変動、安全保障、経済社会の環境変化などにより、地球観測衛星の重要性が増しています。地球観測衛星は、情報戦、海洋ガバナンス、気候変動、食料安全保障、インフラの老朽化対策、防災、再生可能エネルギー、ESG/GXなど、幅広い分野で活用されています。2023年の地球観測衛星データと付加価値サービスの世界売上は約34億ユーロであり、気候変動、都市開発、農業、エネルギー分野が市場の半数を占めています。市場規模は、2040年にはグローバルで約10兆円に達すると予測されています。

観測衛星の性能は、空間分解能、時間分解能、波長分解能の3要素で規定されます。競争が激化する中、空間分解能は0.3mに到達し、時間分解能はPlanet社が200機以上の衛星コンステレーションを配備することで向上しています。今後は、多波長衛星のコンステレーション化による時間分解能向上が期待されています。

地球観測衛星データを活用したビジネスは、洪水被害規模予測、経済活動の分析・可視化、インフラ監視、ワイン用ぶどう畑の給水スケジュール管理、海洋状況把握、水道管の漏水リスク管理、浸水被害評価、森林変化情報提供など、多岐にわたります。さらに、高精度な大型衛星データをベースマップとしつつ、小型衛星コンステレーションにより観測から利用までのリードタイムを大幅に短縮することで、即応性が向上し、安全保障用途やビジネス用途が拡大しています。

民間企業による地球観測衛星コンステレーション計画も進んでおり、国際競争が激化しています。光学衛星では防衛予算に支えられた米国が先行していますが、SAR衛星では日本のスタートアップ企業も遜色ない性能を有しています。

測位衛星の状況

現在、米国、欧州、ロシア、中国がグローバルな衛星測位システムを整備しており、これらのシステムの利活用が推進されています。日本は準天頂衛星システム(QZSS)を運用しており、4機体制で運用中ですが、7機体制の構築に向けて整備を進めています。また、11機体制に向けた検討・開発も進んでいます。

2023年のGNSS機器及び付加価値サービスの収益は約2,600億ユーロであり、2033年には5,800億ユーロに達すると予測されています。付加価値サービスの内訳としては、スマホ等の消費者向けソリューション、カーナビ等の自動車・道路分野が全体の9割以上を占めています。

測位の精度は、高精度化が進んでおり、cmレベルの測位が可能になっています。これにより、カーシェアリング、情報提供サービス、見守り、自動化・自動運転、インフラ維持管理など、様々なサービスでの活用が見込まれます。

宇宙科学・探査の進展

各国による月面計画も進んでおり、米国主導のアルテミス計画に加え、中国やインドなどの新興国も月面活動を活発化させています。また、NASAは民間調達による月面へのペイロード輸送サービス(CLPS)を開始し、宇宙科学・探査分野でも民間活力の活用が進んでいます。

軌道上サービスとスペースデブリ問題

軌道上サービスでは、宇宙デブリの除去や衛星の寿命延長などの技術開発が進められており、日本でもアストロスケール社などが取り組んでいます。軌道上の宇宙ゴミの増加は深刻な問題であり、宇宙空間の利用環境を悪化させています。そのため、国際的なルール整備が進められており、欧州宇宙機関(ESA)は2030年までに「Net Zero Pollution」の実現を目指しています。デブリ除去技術の実証では、日本のスタートアップ企業が先行しています。

課題への取り組み方

宇宙機器産業の強化

宇宙機器産業の強化のためには、まず、各サイズでコンポーネントを含む衛星バス技術の開発を進める必要があります。また、世界で戦えるミッション領域を支援することが重要です。さらに、小型ロケットの低コスト化や量産化に向けた技術開発も欠かせません。サプライチェーンの強化と革新も課題です。

宇宙ソリューション産業の育成

宇宙ソリューション産業の育成には、衛星データ利用の促進が不可欠です。地域実証事業を通じて、衛星データの利用を促進し、衛星データプラットフォームを構築する必要があります。また、懸賞金事業などを通じて、新たなアイデアやビジネスモデルを創出する必要があります。さらに、SBIR制度などを活用してスタートアップ企業を支援することも重要です。

人材の育成と流動化

宇宙産業の成長には、人材の育成と流動化が不可欠です。宇宙に関心のある人材のパイを拡大し、他産業からの人材の流入を促進する必要があります。また、専門人材の教育・リスキリングや、宇宙ベンチャーの採用力強化も必要です。

国際連携とルール形成

国際的な宇宙開発競争に対応するため、国際連携を強化し、宇宙利用のルール形成に積極的に関与する必要があります。特に宇宙デブリ対策、サイバーセキュリティ対策、宇宙利用の公平性の維持など、国際的な協調が不可欠な分野においてリーダーシップを発揮していく必要があります。

産官学連携の強化

宇宙産業の発展には、産官学の連携が不可欠です。JAXAを中心とした研究開発体制を強化し、大学や民間企業との連携を深め、技術開発、人材育成、資金供給など、あらゆる面で協力していく必要があります。また、宇宙関連の技術開発を促進するため、新たな基金を創設し、民間企業や大学が複数年度にわたって大胆に研究開発に取り組めるように支援することも重要です。

宇宙技術戦略の策定と実行

宇宙技術戦略を策定し、その戦略に基づいた技術開発を推進することが重要です。特に、衛星、輸送、探査等の分野において、戦略的に技術開発を進め、国際競争力を高めていく必要があります。また、宇宙技術戦略は、毎年度最新の状況を踏まえてローリングしていく必要があります。

今後の展望

宇宙産業は、今後、ますます重要性を増していくと考えられます。技術革新、民間企業の参入、宇宙利用の多様化という大きな流れの中で、日本も独自の強みを活かし、国際競争力を高めていく必要があります。そのためには、宇宙機器産業の強化、宇宙ソリューション産業の育成、人材の育成と流動化、国際連携とルール形成、産官学連携の強化、宇宙技術戦略の策定と実行など、多岐にわたる取り組みを総合的に進めていく必要があります。

特に、衛星コンステレーションビジネスの加速化、民間ロケットの輸送能力強化、衛星データ利用ビジネスの促進は、喫緊の課題として取り組む必要があります。これらの課題を克服し、宇宙産業の成長を加速させるためには、政府、企業、研究機関、大学が一体となって取り組む必要があります。読者の皆様も、宇宙産業の動向に関心を持ち、積極的に情報収集を行い、今後の宇宙開発の進展を見守っていただきたいと思います。

宇宙産業は、未来を切り開く可能性を秘めた分野です。日本が宇宙産業でリーダーシップを発揮し、持続的な成長を遂げるためには、常に変化を恐れず、革新的な技術開発に挑戦していくことが重要です。そして、その過程で得られる知見や経験を、次世代へと繋げていくことが、さらなる発展への鍵となると考えられます。

Photo by Naoki Suzuki on Unsplash

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