2025/1/29
中小企業経営者必見!技術流出を防ぎ虎の子を守る戦略
はじめに
企業の競争力の根源は、特許、ノウハウ、営業秘密といった知的財産にあることは言うまでもありません。これらの知的財産を武器に他社の参入を阻止することで、企業は競争力を維持することができます。しかし、その知的財産が意図せず第三者に流出する「技術流出」が発生すると、第三者が市場に参入し、価格破壊などが起こり、企業は競争力を失うという事態が頻発しています。この問題を受けて、経済産業省は不正競争防止法を改正し、ノウハウや技術情報が企業内で適切に管理されるよう「営業秘密管理指針」や「技術流出防止指針」を制定し、企業に対する普及・啓発を図っています。
近年、技術流出はグローバルに発生しており、日本の国力低下を食い止めるべき喫緊の課題となっています。特に中小企業にとって、技術流出は深刻な問題です。多くの中小企業は、特許などの知的財産権を取得することをせず、重要なノウハウや技術情報、顧客リストなどを無防備に扱っていることが少なくありません。そのため、取引相手に無断で使用されたり、盗まれたりするリスクは大企業以上に高いと推測されます。東京都知的財産総合センターにも、技術流出や営業秘密の漏洩に関する相談が多く寄せられており、これらの防止に向けた普及・啓発が急務となっています。例えば、ある中小企業では、長年培ってきた独自の製造技術が、海外の委託先を通じて競合他社に漏洩し、市場での競争力を失った事例がありました。また、別の企業では、退職した従業員が競合会社に移り、自社の顧客リストを持ち出して営業活動を行い、大きな損害を被ったケースも報告されています。このような状況を踏まえ、中小企業向けに分かりやすい技術流出防止マニュアルが求められてきました。
本マニュアルは、このような背景から作成されたもので、中小企業向けに、まず、取引形態ごとに流出事例を取り上げ、原因となった問題点や課題を抽出します。そして、その問題点と課題ごとに主要な対策と解説を施し、後半では「技術流出防止のための具体的対策」および「技術流出発覚時の事後対策」を体系的に説明します。難しい話から始めるのではなく、事例に基づいて説明することで、基礎知識や経験のない方でも取り組みやすくなるように構成されています。本マニュアルが中小企業の技術流出防止の一助となり、競争力保持、そして中小企業の発展と地域経済の振興に貢献できることを願っています。
現状分析
本マニュアルは、技術流出の典型的なパターンを取引形態ごとに取り上げた事例編と、それらの事例から得られる主要な対策をまとめた「技術流出防止のための具体的対策」編、そして技術流出が発生してしまった場合の「技術流出発覚時の事後対策」編から構成されています。本マニュアルを効果的に活用するため、まずは、自身が直面している課題に近い事例を読むことで、どのような対策を講じるべきかを理解すると良いでしょう。典型的な事例を15件選定し、自身の事案に類似する事例や参考になる事例を容易に抽出できるように、取引形態と流出媒体、取引形態と流出防止対策の関係を整理した事例早見表も掲載されています。事例ごとの記載内容も、理解しやすいように、概要を示すタイトル、事例説明、そこから抽出される「問題点・課題」、それに対応する「主要な対策」と「主要対策のポイント解説」で統一されています。
事例編では、海外製造子会社の従業員が退職して競合する会社を設立したケース(事例1)では、従業員が工場立ち上げ時から勤務し、重要な技術やノウハウを習得していたにも関わらず、秘密保持誓約書を拒否された事例が紹介されています。この事例から、海外子会社に対する営業秘密管理体制の不備が問題点として浮き彫りになります。また、技術移転先の合弁会社が許諾範囲外に技術を使用したケース(事例2)では、技術提供の範囲が不明確であったために、当初予定していなかった技術まで提供を求められ、結果として第三国で自社の技術が利用される事態が発生しました。この事例からは、契約の不明確さや技術移転先の評価不足が課題として指摘できます。さらに、定年退職間近の従業員が競合会社に引き抜かれたケース(事例3)では、長年勤務していた従業員が、重要な技術やノウハウを熟知していたにも関わらず、会社として引き止めることができなかった点が問題点として挙げられています。この事例から、従業員との良好な関係構築や、ベテラン従業員の活用が課題として浮き彫りになります。
具体的には、海外の生産委託先の退職社員に類似品を製造された事例(事例4)では、技術教育を受けた社員が退職後に類似品を製造販売したケースが紹介されており、社員の退職後の行為について生産委託契約で制限しても限界があることが示唆されています。最終加工・組立てを海外メーカーに委託したら類似品を製造された事例(事例5)では、契約で類似品の製造販売を禁止していたにも関わらず、委託先がリバースエンジニアリングによって類似品を製造したケースが紹介されており、契約遵守状況の監視体制の甘さが浮き彫りになっています。製造設備を発注した際にノウハウを提供したら類似品を製造された事例(事例6)では、発注先の下請会社を通じて競合メーカーに技術が流出したケースが紹介されており、下請会社への委託に対する秘密保持対策の不備が問題点として指摘されています。製造設備を1台納入して2台目以降失注した事例(事例7)では、契約内容の不備や秘密情報であることがわかるような表示がなされていなかった点が課題として指摘されています。また、金型図面等を提供したら競合企業に安く発注されてしまった事例(事例8)では、契約内容の不明確さや知的財産に対する認識不足が問題点として示されています。
さらに、顧客からの要望を受けて工程監査を受け入れたら技術を盗まれた事例(事例9)では、工程監査の受け入れ可否の判断が甘く、技術流出に対する事前の対策が不十分であったことが問題点として挙げられています。顧客の要望を受けて工場見学を受け入れたら技術を盗まれた事例(事例10)では、見学者の特定や契約対応が不十分であったことが問題点として示されています。海外展示会でのセールストーク中に示した技術情報を流用された事例(事例11)では、来訪者の反応の良さに気が緩み、通常は開示しない情報まで与えてしまったこと、そして不特定多数の来訪者への情報開示に関する対応が不十分であったことが問題点として挙げられています。商談を通じて自社独自技術まで共同出願せざるを得なくなった事例(事例12)では、秘密保持契約前に秘密情報を開示してしまったこと、そして特許出願の遅れが問題点として示されています。成果の自由利用を制限しなかったために想定外の製品に利用された事例(事例13)では、成果の利用範囲を制限していなかったこと、そして議論の内容を記録していなかったことが問題点として指摘されています。大学との共同開発成果を了解外の内容まで学生が学会発表してしまった事例(事例14)では、大学側関係者(特に学生)への契約内容の周知徹底が不十分であったことが問題点として挙げられています。そして、開発受託の成果としての技術を勝手に流用された事例(事例15)では、開発委託契約などの契約を締結していなかったことが問題点として示されています。
課題への取り組み方
技術流出防止のための具体的対策としては、まず、守るべき技術を特定し、その守り方を明確にすることが重要です。具体的には、自社にしかない技術、自社の強みや利益の源泉となっている技術を認識し、把握する必要があります。そして、その技術がなぜ価値があるのか、その根拠や技術的な裏付けを再確認し、守るべき技術を特定します。守るべき技術は、秘密性の高い技術(ブラックボックス化など)と、特許などで権利化する技術に分類し、それぞれ適切な対策を講じる必要があります。例えば、自社独自の製造プロセスや配合技術、顧客リスト、営業戦略、デザインなどの情報は、ブラックボックス化や適切なアクセス制限によって秘匿化すべきです。一方、製品の形状や構造、材料組成などの情報は、特許や意匠権、商標権によって権利化することで保護を強化できます。営業秘密管理体制の整備・構築も不可欠であり、秘密情報が適切に管理されているか、従業員は秘密情報を認識しているか、そして対象情報を一般情報から合理的に区分しているかなどを確認する必要があります。具体的には、秘密情報を重要度に応じてランク分けし、物理的、技術的、人的、組織的な管理体制を整備し、アクセス制限、パスワード設定、秘密保持誓約書等の取得、秘密情報の廃棄・回収等の措置を講じる必要があります。
また、取引相手の評価も重要です。契約遵守意識や秘密管理体制などを評価し、誠実な会社かどうかを見極めることが大切です。契約内容についても、技術流出リスクを想定し、秘密保持義務、目的外使用禁止義務などを盛り込むとともに、具体的な管理手段を契約で取り決めることが必要です。例えば、契約書に、技術情報の開示範囲、利用目的、第三者への開示禁止、リバースエンジニアリングの禁止、秘密保持義務違反時の損害賠償責任などを明記する必要があります。また、監査権限を契約に盛り込み、定期的に監査を実施することも重要です。そして、契約が遵守されているか定期的に監査を行うこと、ブラックボックス化などの物理的な予防措置を講じることも重要です。具体的には、重要な部品や技術を自社内で製造したり、製造工程を分割して複数社に委託したりする、あるいは、製造設備に不正な解析や模倣を防止するための仕掛けを施したりすることが考えられます。また、企業は、技術移転先や合弁相手との良好な関係を構築し、維持する努力も必要です。技術情報を開示する際には、どの技術を開示し、どの技術を開示しないかを事前に明確にし、開示する範囲を慎重に検討する必要があります。また、開示する際には、秘密情報であることを明示し、その範囲を限定することが重要です。例えば、技術情報を開示する際には、秘密を示す「マル秘」マークを付与したり、開示範囲を示す書類を添付したり、口頭で開示する際には、秘密情報であることを明確に伝えたりすることが考えられます。
さらに、技術流出リスクを想定した契約内容を作成し、知的財産の帰属、利用条件を明確にすることも重要です。共同開発においては、成果の自由利用を制限したり、相手の貢献度に応じて利用条件を定めたりすることが考えられます。例えば、共同開発の成果を自社のみで利用する場合、相手方にはライセンス料を支払う、あるいは、共同開発の成果を第三者に販売する場合、収益を分配する等の利用条件を契約で明確に定めることが必要です。契約内容を検討する際には、独占禁止法に抵触しないかを確認することも重要です。製造委託等においては、キーパーツや原材料の分析を禁止する措置を講じ、製造設備を模倣されないようにブラックボックス化することも有効です。また、従業員との良好な関係を築き、退職後の競業避止義務を課すことも有効な手段です。工程監査や工場見学の受け入れは慎重に判断し、受け入れる場合には、見学範囲や秘密保持契約を明確にする必要があります。例えば、工場見学の際には、写真撮影やビデオ撮影を禁止したり、見学ルートを限定したり、見学時に質問できる範囲を限定したりすることが考えられます。展示会においては、商談用情報の開示範囲を事前に決定し、配布資料の内容を限定すること、そして商談相手の信用度を確認することが重要です。第三者との共同開発においては、秘密情報の開示は契約を締結してからという基本ルールを徹底し、特許出願すべき技術情報は開示する前に出願を済ませておく必要があります。また、協議・議論の内容を後で両者が確認できるように議事録を残しておくことも重要です。開発受託においては、成果の取扱い等を事前に取り決め、合意事項を反映させた開発委託契約を締結する必要があります。
今後の展望
技術流出は、企業にとって深刻な脅威であり、その防止には継続的な努力が必要です。本マニュアルで示された対策は、技術流出を完全に防ぐことを保証するものではありませんが、技術流出のリスクを低減し、企業が知的財産を守るための一助となるでしょう。今後は、技術流出防止に関する法制度や技術も変化していく可能性があり、企業は常に最新の情報を収集し、対策を更新していく必要があります。例えば、情報セキュリティに関する技術は日々進歩しており、常に最新のセキュリティ対策を導入することが重要です。また、従業員の意識改革も重要であり、定期的な研修や教育を通じて、技術流出のリスクについて周知徹底する必要があります。技術流出防止のためには、経営層から従業員まで全員が意識を高め、組織全体で取り組むことが重要です。また、技術流出が発生してしまった場合には、迅速かつ適切に対応し、被害を最小限に抑える必要があります。そのためには、事前の準備と事後の対策の両方が不可欠です。
企業は、本マニュアルを参考に自社の現状を分析し、自社に合った技術流出防止対策を策定し、実行していくことが求められます。そして、その対策を継続的に見直し、改善していくことが重要です。技術流出防止は、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、地道な努力を続けることで、技術流出のリスクを低減し、企業の競争力を維持することができます。本マニュアルが、中小企業の皆様が知的財産を守り、事業を発展させるための一助となることを願っています。また、技術流出は、中小企業だけでなく、大企業にとっても深刻な問題です。大企業も、本マニュアルを参考に、自社の技術流出防止体制を見直し、強化していくことが求められます。技術流出は、企業だけでなく、日本経済全体にとっても大きな損失です。日本全体で技術流出防止の意識を高め、対策を講じることが重要です。
最後に、技術流出防止は、企業が生き残るための必須の取り組みです。本マニュアルが、中小企業経営者の皆様にとって、自社の技術を守り、未来を切り開くための一助となることを心より願っています。本マニュアルを参考に、自社の技術を守るための具体的な行動を起こし、競争力のある企業を目指していただきたいと思います。
Photo by Risa on Unsplash
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