2025/1/31
電力購入契約(PPA)の会計処理:複雑な課題と解決策
はじめに
近年、地球温暖化問題への意識の高まりとともに、企業は持続可能なエネルギー源への移行を加速させています。その中で、電力購入契約(PPA)は、再生可能エネルギー導入を促進する上で重要な役割を果たしています。特に、企業が自社の電力需要を再生可能エネルギーで賄うための手段として、コーポレートPPAへの注目が高まっています。コーポレートPPAは、物理的な電力供給を伴うフィジカルPPAと、物理的な供給を伴わないバーチャルPPA(VPPA)に大別されます。VPPAは、既存の電力契約を変更せずに環境価値を確保できることから、特に需要家企業にとって魅力的な選択肢となっています。また、発電事業者にとっても、固定価格での売電収入が確保できるため、資金調達の円滑化やリスク分散に繋がるという利点があります。例えば、ある欧州の風力発電事業者は、VPPAを通じて長期的な収益安定性を確保し、新たな風力発電所の建設資金を調達しました。これは、VPPAが再生可能エネルギープロジェクトの成長を支える上で重要な役割を果たしていることを示しています。 しかし、PPA、特にVPPAの導入には、会計処理上の複雑な課題が伴います。VPPAは、発電事業者から需要家企業への環境価値の移転と、卸電力の市場価格と固定価格との差額精算を行うスキームであり、この差額精算取引がデリバティブ取引に該当する可能性が指摘されています。このため、PPAを検討する企業は、契約の初期段階から会計処理に関する専門家の意見を求め、慎重に検討を進める必要があります。例えば、ある企業がVPPAを導入する際、会計専門家との協議を怠った結果、契約締結後にデリバティブ会計の適用が必要となり、財務諸表に大きな影響を与えたという事例があります。このような事態を避けるため、契約前の十分な検討が不可欠です。
現状と課題
日本におけるコーポレートPPAの導入は、欧米と比較してまだ少ない状況にあります。しかし、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの導入拡大は不可欠であり、FIT/FIP制度に依存しない長期契約モデルであるコーポレートPPAへの期待は高まっています。VPPAの導入は、環境価値の安定的な確保や、発電事業者の資金調達の円滑化、再エネ電気のバランシングの容易化など、多くの利点をもたらします。例えば、ある企業は、VPPAを通じて長期的な再生可能エネルギーの調達契約を結び、変動する電力価格のリスクをヘッジしつつ、環境目標を達成しました。しかし、会計上の取扱いは別途検討が必要となります。特に、環境価値取引と電力価格の差額精算取引を分離して会計処理を行う場合、関連する会計基準に照らして、デリバティブとしての会計処理が必要になるかどうかが課題となります。この点について、デロイトトーマツの調査では、多くの企業がPPA導入時に会計処理の複雑さに直面しており、特にVPPAの差額精算取引の取扱いに苦慮していることが示されています。 経済産業省の見解として、2022年11月に、VPPAにおいて環境価値が実態のあるものであり、発電事業者から需要家への権利移転が確認できる場合、再エネ証書等の売買と判断できるため、商品先物取引法の適用はないとの見解が示されました。これは、PPA導入を検討する企業にとっては追い風となります。しかし、会計処理においては、差額精算取引がデリバティブに該当する場合、時価評価や評価差額の損益処理が求められるため、会計上の複雑さが増すことになります。例えば、ある企業がVPPA契約における差額精算取引をデリバティブとして会計処理した場合、市場価格の変動により、四半期ごとに損益が大きく変動し、業績分析に影響を与えたという事例があります。また、時価算定の重要なインプットとなる卸電力市場のフォワードカーブが、日本では公表情報として入手しにくいという点も、実務上の大きな課題です。さらに、既存の電力契約が市場連動型の場合、差額精算取引を電力調達価格のヘッジ目的で行うケースもあり、ヘッジ会計の適用可否も検討が必要となります。特に、長期にわたる電力調達の予定取引の実行可能性をどのように予測するかが課題となります。例えば、ある企業が市場連動型の電力契約を結んでいる場合、VPPAの差額精算取引をヘッジ会計の対象とすることで、電力価格の変動リスクを相殺できる可能性がありますが、ヘッジ会計の適用には、詳細な分析と専門的な知識が求められます。 ドイツでは、IFRS(国際財務報告基準)に基づき、PPAの会計処理が先行して進んでいます。ドイツの事例では、差額精算取引の決済額が発電事業者の電力供給量に応じて決定される場合、適用する会計基準によって会計処理が異なる可能性があるため、注意が必要です。IFRSにおけるデリバティブの定義は、日本基準とは異なるため、会計処理に影響を与える可能性があります。例えば、IFRSではデリバティブの定義に想定元本等の要件が含まれていないため、日本基準とは異なる解釈が求められます。ドイツのエネルギー企業であるE.ONは、IFRSに基づいて複雑なPPA契約を適切に会計処理しており、その経験は他の企業にとっても参考になります。デロイトドイツの分析によれば、ドイツの企業は、PPA契約の複雑さを理解し、会計処理に関する専門家のアドバイスを積極的に求める傾向があります。このアプローチは、会計上のリスクを最小限に抑え、PPA契約の成功を確実にする上で不可欠です。 PPA締結の促進要因として、エネルギー需要とステークホルダーからの圧力が高まっていることが挙げられます。また、エネルギー価格の変動性が増大していることも、PPA導入を後押しする要因となっています。欧州では、2030年までの排出量削減目標を設定しており、投資家はサステナビリティを重視した投資機会を求めています。このような状況下で、PPAは、企業が再生可能エネルギーの導入を促進し、長期的な価格ヘッジを実現するための有効な手段として注目されています。DAX40企業においても、PPA締結の動きが活発化しており、特に化学、自動車、エネルギー業界での導入が進んでいます。PPAは、政府の新たな法令やCO2排出量削減目標、CO2証書とエネルギー価格の上昇といった要因から、その重要性が増しています。さらに、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)との関連で、PPAの重要性はますます明確になっています。例えば、ドイツの化学大手BASFは、PPAを通じて再生可能エネルギーの調達を拡大し、環境目標を達成するとともに、エネルギーコストの安定化を図っています。また、自動車メーカーであるフォルクスワーゲンも、PPAをサプライチェーンにおける脱炭素化戦略の一環として活用しており、持続可能な事業運営を推進しています。 PPAは、フィジカルPPAとバーチャルPPAに大別されます。フィジカルPPAは、発電事業者と需要家企業が直接的な電力供給契約を結び、物理的な電力の供給を伴います。一方、バーチャルPPAは、物理的な電力取引は行われず、通常はスポット価格とPPA価格の差額について純額決済が行われます。フィジカルPPAでは、需要家が再生可能エネルギーの消費を目的とする場合が多く、一方、バーチャルPPAは、電力価格変動に対するヘッジ手段として利用されることが一般的です。PPA契約には、発電源証明(GO)や再生可能エネルギー証書(REC)の移転に関する規定も含まれることが多く、会計処理においては、これらの要素を個別に評価する必要がある場合があります。例えば、ある企業がフィジカルPPA契約を結んだ場合、電力供給契約の他に、RECの移転も契約に含まれており、会計処理においてこれらの要素を個別に評価する必要がありました。特に、RECの評価は、市場価格の変動や規制の変更によって左右されるため、慎重な評価が求められます。
解決への取り組み
PPAの会計処理は、契約内容や事業目的によって大きく異なります。ここでは、IFRSを基準とした会計上の影響と、具体的な解決策について解説します。まず、バーチャルPPAにおいては、デリバティブに該当するか否かが重要な判断ポイントとなります。デリバティブとは、将来に決済される金融契約であり、その価値は原資産(電力など)に依存します。PPAがデリバティブとして認識された場合、詳細な会計分析や公正価値での評価、損益の変動などが生じます。デリバティブの定義は、IFRSでは「原資産の価値に連動して価値が変動し、契約開始時点で純投資を必要とせず、将来的に決済される」ものとされており、この定義に合致するかどうかを慎重に判断する必要があります。例えば、ある企業がVPPA契約において、固定価格での電力購入契約と市場価格との差額精算を行う場合、この差額精算取引がデリバティブに該当する可能性が高くなります。この場合、公正価値で評価する必要があり、会計処理が複雑になる可能性があります。 また、REC(再生可能エネルギー証書)の購入や電力購入についても、個別に分析が必要となります。PPAには、REC要素と電力要素が含まれる可能性があり、それぞれを評価する必要があるからです。例えば、あるVPPA契約では、環境価値を示すRECと、電力価格のヘッジを行うための差額精算取引が一体となっており、会計処理ではこれらの要素を個別に分析し、適切な会計処理を適用する必要があります。RECは、市場価格が存在する場合、公正価値で評価されますが、市場価格が存在しない場合は、合理的な方法で評価する必要があります。また、電力購入契約についても、固定価格契約か市場連動型契約かによって、会計処理が異なります。 さらに、PPAがリース契約に該当する可能性も検討する必要があります。PPAがリースと見なされる場合、使用権資産とリース負債を認識する必要があり、これはバランスシートに大きな影響を与えます。リース契約と判断されるかどうかは、特定の施設からの調達か、プラントで生み出されたすべての便益を受け取っているか、プラントの使用を指図する権利を有するかといった点を考慮して判断します。例えば、ある企業が特定の風力発電所から独占的に電力を購入する契約を結んでいる場合、契約がリース契約と見なされる可能性があり、使用権資産とリース負債を認識する必要が生じます。この場合、減価償却や利息費用の計上が必要となり、財務諸表に大きな影響を与えることになります。 また、PPAが純額決済される場合、IFRS第9号の適用範囲に含まれる可能性があり、自己使用の例外に該当するかどうかを検討する必要があります。自己使用の例外に該当する場合、電力引渡時に標準的な調達契約に従って費用を認識します。自己使用の例外とは、企業が電力の購入を自社の事業活動のために使用する場合を指し、この場合、デリバティブ会計の適用を免れることができます。例えば、ある企業がVPPAを通じて購入した電力を自社の工場で使用する場合、自己使用の例外に該当する可能性があり、デリバティブ会計の適用を免れることができます。ただし、自己使用の例外を適用するためには、契約内容や事業目的を慎重に分析する必要があります。 IFRSの適用範囲を判断するには、契約と基本的な事業目的の詳細な分析が必要です。具体的には、契約に特定された資産が含まれているか、需要家がその資産から経済的便益を得ているか、資産の使用方法を指示する権利を有するかといった点を検討します。また、契約がデリバティブの定義を満たすか、純額決済されるか、グリーンエネルギーのニーズを満たすために締結されているかといった点も考慮します。契約内容に応じて、IFRS第16号に基づきリース契約として会計処理するか、IFRS第9号に基づき金融商品として会計処理するか、自己使用として会計処理するかを決定します。例えば、ある企業がPPA契約を結ぶ際、まず契約内容を詳細に分析し、契約が特定の発電所に紐づいているか、企業がその発電所の使用を指図する権利を有しているか、純額決済か否か、自己使用目的か否かといった点を慎重に検討する必要があります。この分析結果に基づき、IFRS第16号、IFRS第9号、または自己使用のいずれの会計処理を適用するかを決定します。 ビジネスケースとして、バーチャルPPAとフィジカルPPAの会計処理について、具体的な例を挙げて解説します。バーチャルPPAのケースでは、固定価格契約はデリバティブに該当する可能性が高く、公正価値で評価する必要があります。また、ヘッジ会計を適用することで、損益の変動を抑制できる可能性があります。例えば、ある企業がVPPA契約において、固定価格での電力購入契約を結んでいる場合、この契約はデリバティブとして公正価値で評価し、毎期末に評価損益を計上する必要があります。ただし、契約がヘッジ会計の要件を満たす場合、ヘッジ会計を適用することで、損益の変動を抑制することができます。一方、フィジカルPPAのケースでは、自己使用の例外に該当するかどうか、リース契約に該当するかどうかを検討する必要があります。自己使用の例に該当する場合、IFRS第9号の適用範囲外となり、標準的な調達契約に従って費用を認識します。リース契約と判断される場合は、使用権資産とリース負債を認識し、減価償却を行う必要があります。例えば、ある企業が特定の太陽光発電所から電力を購入するフィジカルPPA契約を結んでいる場合、契約が自己使用の要件を満たす場合は、デリバティブ会計の適用を免れ、購入した電力を標準的な調達契約に従って費用計上することができます。しかし、契約がリース契約と見なされる場合は、使用権資産とリース負債を認識し、減価償却を行う必要があります。 PPAの会計処理においては、公正価値の測定が重要な課題となります。公正価値は、市場取引における価格を基準に測定しますが、長期にわたる電力市場の価格変動を予測する必要があるため、複雑な計算が必要になります。また、ヘッジ会計を適用する場合は、ヘッジ対象とヘッジ手段の有効性を評価する必要があり、専門的な知識が求められます。例えば、ある企業がVPPA契約におけるデリバティブを公正価値で評価する際、長期にわたる電力市場のフォワードカーブを予測する必要があり、専門的な知識と複雑な計算が必要になります。また、ヘッジ会計を適用する場合、ヘッジ対象である電力購入契約とヘッジ手段であるVPPA契約の有効性を定期的に評価する必要があり、専門的な知識と経験が求められます。これらの課題に対応するために、企業は会計専門家やコンサルタントの支援を受け、契約の初期段階から会計処理に関する検討を進めることが重要です。デロイトトーマツグループでは、PPAに関する豊富な経験と専門知識を有しており、企業が直面する複雑な会計処理上の課題を解決するための包括的なサポートを提供しています。例えば、過去の事例では、デロイトトーマツの専門家が、ある企業におけるPPA契約の会計処理に関する課題を解決し、財務諸表の信頼性を確保することに貢献しました。また、デロイトトーマツは、PPA契約の組成から契約後の会計処理まで、一貫したサポートを提供しており、企業のPPA導入を支援しています。
今後の展望
今後、企業における再生可能エネルギーの導入はますます加速すると予想されます。それに伴い、PPAの導入も増加するでしょう。PPAは、企業の脱炭素化目標達成に向けた有効な手段である一方で、会計処理の複雑さから導入を躊躇する企業も少なくありません。本稿で解説したように、PPAの会計処理は、契約内容や事業目的によって多岐にわたり、専門的な知識が求められます。したがって、PPAの導入を検討する企業は、会計上の検討課題を早期に把握し、専門家と協力しながら慎重に進める必要があります。例えば、ある企業がPPA導入を検討する際、まず契約の目的を明確にし、専門家と協力しながら、会計上の課題を評価し、適切な会計処理を検討する必要があります。また、契約の初期段階から会計処理に関する検討を進めることで、契約締結後の会計処理を円滑に進めることができます。 読者の皆様へのアドバイスとして、PPAの契約締結にあたっては、以下の点に留意してください。まず、PPAの目的を明確にすることが重要です。REC(再生可能エネルギー証書)の調達が目的か、電力価格のヘッジが目的か、あるいは両方かによって、会計処理や契約内容が異なります。次に、契約内容を詳細に分析し、デリバティブやリースの定義に該当するかどうかを慎重に検討してください。また、公正価値の測定やヘッジ会計の適用についても、専門家の助言を得ながら進めるのが賢明です。さらに、PPA導入後の会計処理を円滑に進めるために、適切なシステムやツールを導入することも検討してください。例えば、ある企業がPPA契約を締結する前に、まずPPAの目的を明確にし、RECの調達と電力価格のヘッジのどちらを重視するかを決定する必要があります。その後、契約内容を詳細に分析し、デリバティブやリースの定義に該当するかどうかを慎重に検討し、必要に応じて会計専門家やコンサルタントの助言を得る必要があります。また、PPA導入後の会計処理を円滑に進めるために、会計システムやツールを導入することも検討する必要があります。 最後に、PPAの導入は、企業の持続可能性目標達成に貢献するだけでなく、長期的なエネルギーコストの安定化にも繋がります。PPAの導入を検討する際には、本稿で解説した内容を踏まえ、専門家と協力しながら、自社にとって最適なPPAスキームを構築してください。ご不明な点や具体的なご相談がありましたら、デロイトトーマツグループまでお気軽にお問い合わせください。私たちは、PPAプロジェクトに関する豊富な経験と専門知識を活かし、皆様の課題解決をサポートさせていただきます。デロイトトーマツグループは、PPAに関する豊富な経験と専門知識を有しており、企業が直面する複雑な会計処理上の課題を解決するための包括的なサポートを提供しています。例えば、過去の事例では、デロイトトーマツの専門家が、ある企業におけるPPA契約の会計処理に関する課題を解決し、財務諸表の信頼性を確保することに貢献しました。また、デロイトトーマツは、PPA契約の組成から契約後の会計処理まで、一貫したサポートを提供しており、企業のPPA導入を支援しています。 Call To Action: PPA導入に関するご相談は、弊社までお問い合わせください。貴社の脱炭素化戦略を全力でサポートいたします。
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