Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2026/1/7

決済手段多様化のリスクと経営ガバナンス:100兆円市場に潜む法規制の空白

⚡ Executive Summary(30秒でわかる要点)

  • 【警鐘】 決済手段の多様化が「法規制の空白地帯」を生み、企業のブランド価値を毀損するリスクが急増しています。
  • 【影響】 キャリア決済等の新興手段による相談は年間約5,000件に達し、100兆円を超える決済市場全体で「責任の所在」が問われています。
  • 【対策】 単一の決済手段の導入に留まらず、決済代行やプラットフォームを含む「ネットワーク全体」でのガバナンス構築が急務です。

目次

  • 「便利さ」の裏側に潜む、経営を揺るがす決済リスクの正体
  • 決済ネットワークの断絶が招く「責任の押し付け合い」
  • 事例から学ぶ成功法則:信頼をインフラ化する「ベースキャンプ」の構築
  • 決済ガバナンスが、次世代の企業価値を決定づける

「便利さ」の裏側に潜む、経営を揺るがす決済リスクの正体

キャッシュレス化の進展は、顧客体験を向上させ、売上を加速させる強力なエンジンです。しかし、そのエンジンの構造が複雑化し、ブラックボックス化していることに気づいている経営者は多くありません。クレジットカード、後払い決済(BNPL)、キャリア決済といった多様な手段が入り乱れる中で、今、法規制の「はざま」で発生する消費者トラブルが、決済を提供する企業の信頼を根底から揺るがし始めています。決済はもはや単なる「道具」ではなく、企業の倫理観とガバナンスが試される「経営の急所」なのです。

決済ネットワークの断絶が招く「責任の押し付け合い」

現在の決済インフラは、イシュアー、アクワイアラー、決済代行会社、デジタルプラットフォームなど、極めて多くのプレイヤーが連鎖することで成立しています。この「重層構造」こそが、トラブル発生時の最大の経営リスクです。何らかの問題が生じた際、誰が責任を負い、誰が被害回復を担うのか。この責任構造が「アンバンドリング(分解)」された結果、実態として「誰も責任を取らない」空白地帯が生まれています。経営者は、自社が関与する決済サプライチェーンの全容を把握し、この断絶を埋める「ネットワーク責任」を直視しなければなりません。

100兆円市場の光と影:無規制な「後払い」が招くブランド毀損

日本のクレジットカード取引額は今や100兆円を超える巨大市場へと成長しました。しかし、その影で法規制が追いついていない「翌月一括払い」や「キャリア決済」が、悪質商法の温床となっている現実に目を向けるべきです。特にキャリア決済に関する相談は年間約5,000件に上り、少額であっても繰り返しの利用で多重債務化するケースが頻発しています。ROI(投資対効果)ばかりを優先し、リスク管理を疎かにした決済手段の採用は、将来的に甚大なコンプライアンス・コストとブランド毀損を招くことになります。

「ネットワーク責任」の受容:投資対効果としての安全性

決済の安全性を確保するためのコストは、決して「無駄な出費」ではありません。むしろ、持続的な企業価値向上のための「戦略投資」です。規制に対応するためのコストが大きくなれば、一時的に少額決済サービスの収益性は低下するかもしれません。しかし、システムの健全性に投資できないサービスは、早晩市場から淘汰されます。経営者は、決済パートナーを選定する際、単なる手数料率だけでなく、トラブル解決能力やネットワーク全体での責任分担(ネットワーク責任)をどの程度明確にしているかを評価基準に据えるべきです。

事例から学ぶ成功法則:信頼をインフラ化する「ベースキャンプ」の構築

ある先進的なフィンテック企業は、技術的な利便性(UX)の追求と並行して、法規制を先取りした独自の「加盟店管理基準」を構築しました。彼らは、自社が提供する決済手段が悪用されることを防ぐため、決済代行会社やプラットフォームとの間で責任の所在を契約レベルで明確化しました。これは、山頂(完成された法整備)を目指すための「ベースキャンプ」を自ら設営する行為に他なりません。この強固な土台があったからこそ、彼らはユーザーからの圧倒的な信頼を獲得し、競合他社が法改正への対応に追われる中で、独走態勢を築くことができたのです。

決済ガバナンスが、次世代の企業価値を決定づける

今、私たちは決済制度の大きな転換点に立っています。これまでの「利便性一辺倒」の時代は終わり、これからは「信頼と安全の裏付け」がある企業だけが生き残る時代です。今回の中間整理で示された課題は、貴社が次なる成長ステージへ進むための重要なチェックリストでもあります。決済という「一円の重み」を扱うインフラにおいて、いかに誠実に、いかに戦略的にリスクと向き合うか。その決断が、貴社の10年後の企業価値を左右します。

今回ご紹介した内容は全体像の一部に過ぎません。貴社の固有の状況に合わせて、この決済手段の多様化を最大限に活用し、企業価値向上に繋げるための具体的なロードマップについては、ぜひ一度ご相談ください。

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