Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2026/1/2

霞が関の改革に学ぶ!「忙しい」を言い訳にしない組織変革と型化の極意

霞が関が動いた。御社の「忙しい」が言い訳にならない理由と、組織の悪癖を断つ「型化」の極意

「文化だから変えられない」という幻想の崩壊

「うちは特殊な業界だから」「長年の慣習はそう簡単に変わらない」。経営会議で改革案が出るたびに、このような言葉で議論が停止していませんか。もし、日本で最も堅牢な組織構造を持つ「霞が関(経済産業省)」が、聖域なき業務改革に乗り出したとしたら、民間企業である貴社に「変われない理由」は存在するでしょうか。

今回分析した資料は、BCG(ボストン コンサルティング グループ)が経済産業省に対して実施したBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の最終報告書です。ここには、巨大組織が「個人の根性」への依存を脱却し、科学的なアプローチで生産性を劇的に向上させようとする、血の滲むような構造改革の青写真が描かれています。

「個人の奮闘」に依存する組織は、必ず破綻する

本報告書が浮き彫りにしたのは、優秀な人材の「長時間労働」によって辛うじて支えられている組織の脆さです。

【事実(Facts)】
資料内のアンケート分析(7ページ)によると、本省職員の月平均残業時間は、課長級が28時間であるのに対し、「係員(1年目)」は57時間、実務の中核を担う「課長補佐級」は45時間に達しています。若手と中間管理職に負荷が集中し、組織の持続可能性が危機に瀕している状況がデータとして示されています。

【解釈(Insights)】
これは多くの日本企業でも散見される「ピラミッドの逆転現象」です。経営層が「戦略」ではなく「調整」に時間を奪われ、若手が「成長」ではなく「作業」に忙殺されている。この状態を放置することは、人的資本経営の観点から見て、負債を積み上げているに等しい行為です。残業時間の多さは、業務量の多さではなく「業務設計の欠陥」を示唆しています。

「暗黙知」を殺し、「型(カタ)」を支配せよ

組織の生産性を阻害する最大の要因は、業務が属人化し「あの人にしか分からない」状態が常態化することです。報告書ではこれを打破するために「オペレーションの“型”整備」を提言しています。

【事実(Facts)】
資料(16ページ・18ページ)では、会議やタスクマネジメントにおける具体的な「型」が定義されています。
例えば、会議においては: 「打ち合わせは議論や意思決定のみ」とし、情報共有は非同期で行う。 資料は「2日前」に送付し、当日の説明時間を半減させる。 「全部読んで気になるところにご意見ください」という曖昧な依頼(丸投げ)を禁止し、論点を明確にする。 これらを「マナー」ではなく「ルール(型)」として実装しようとしています。

【解釈(Insights)】
経営者がなすべきは、精神論で「効率化しろ」と叫ぶことではありません。「準備なき会議は開催しない」「意思決定なき会議はコストである」という定義を組織のOSとして書き換えることです。ハイパフォーマンスな組織ほど、コミュニケーションコストを下げるための「共通言語」と「型」を持っています。貴社の会議は、儀式になっていませんか? それを「型」に嵌めるだけで、組織全体の総労働時間の10〜20%は容易に削減可能です。

「高給取り」に「雑用」をさせるな:ROI視点でのリソース配分

もう一つの重要な視点は、コア業務とノンコア業務の峻別です。

【事実(Facts)】
資料(11ページ・14ページ)では、業務を「自組織で重点実施すべき業務(コア)」と「外部化可能な業務(ノンコア)」に明確に切り分けています。 具体的には、政策立案に必要な「高度な判断」以外、例えば「日程調整」「資料の体裁修正」「一次リサーチ」などは、外部委託(BPO)や派遣スタッフ、あるいは生成AIへの代替を推奨しています。

【解釈(Insights)】
貴社のエース社員の時給を計算したことはありますか? 年収1,000万円のマネージャーが、パワーポイントの図形調整や日程調整に1日1時間を費やしているとしたら、それは会社にとって莫大な損失です。 「自分でやった方が早い」は、経営視点では「甘え」です。ノンコア業務を徹底的に切り出し(アウトソーシング)、生み出された余力を「未来の売上を作る活動」や「人材育成」に再投資する。このリソースポートフォリオの組み替えこそが、経営者の手腕が問われる領域です。

事例から学ぶ成功法則:経済産業省の「3ステップ」ロードマップ

巨大組織を変えるには、順序があります。いきなり「意識を変えろ」と言っても現場は疲弊するだけです。本報告書が提示するロードマップ(28ページ)は、極めて実践的です。

Step 1:物理的な余力の創出(〜24年度前半)
まずは外部化(アウトソーシング)によって、強制的に「時間」を作ります。現場が溺れている状態で泳ぎ方は教えられません。

Step 2:自律的な改革推進と仕組み化(24年度後半)
生まれた余力を使って、業務の「型化」やナレッジマネジメントの基盤を整備します。ここで初めて「霞が関版20%ルール(改革活動への充当)」のような制度を導入し、改革を評価する仕組みを作ります。

Step 3:仕事の進め方の本質的な変革(25年度〜)
最終的に、業務そのものの廃止や、他省庁連携を含めた抜本的なプロセス改革へと昇華させます。

この順序を間違えてはいけません。まずは「捨てる・任せる」ことでリソースを空け、その後に「整える」、最後に「変える」。これが鉄則です。

「忙しさ」を美徳とする時代を終わらせる

経済産業省のこの取り組みは、単なる「働き方改革」ではありません。限られたリソース(税金・人員)で最大の付加価値(政策)を生み出すための、生存をかけた経営戦略です。

「うちは人が足りない」と嘆く前に、今いる優秀な人材のリソースをドブに捨てていないか、胸に手を当てて考えてみてください。若手が57時間の残業で疲弊し、本来のポテンシャルを発揮できていないとしたら、それは経営の責任です。

今回ご紹介した内容は全体像の一部に過ぎません。貴社の固有の状況(財務・組織・事業フェーズ)に合わせて、この「業務の型化」と「リソース再配分」を最大限に活用し、企業価値向上に繋げるための具体的なロードマップについては、ぜひ一度ご相談ください。戦略と数字の両面から伴走支援いたします。

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