2025/2/3
GX建機普及への道筋:ロードマップ策定研究会の中間まとめを徹底解説
はじめに
建設業界における脱炭素化は、地球温暖化対策の喫緊の課題であり、同時に国際競争力強化の鍵となります。経済産業省が主導する「GX建機普及に向けたロードマップ策定に係る研究会」の中間とりまとめ(2025年1月31日)は、この重要な転換期における具体的な道筋を示唆しています。本記事では、この中間とりまとめの内容を詳細に分析し、建設業界が直面する課題と、その解決に向けた取り組みを解説します。 建設業界は、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、電動建機を中心としたGX建機の開発、性能向上、量産化への投資を加速させる必要があります。しかし、現状では、供給側(メーカー)と需要側(ユーザー・レンタル)双方における投資・導入に係る課題が山積しており、その解決策が求められています。 特に、電動建機の導入には、初期コストの高さや充電インフラの整備不足など、多くの障壁が存在します。また、中古建機の適切な販売価格の維持や、バッテリーのリユース・リサイクル体制の構築も重要な課題です。これらの課題を解決し、GX建機の普及を促進するためには、官民一体となった取り組みが不可欠です。 本記事では、中間とりまとめの内容を基に、現状の課題を分析し、具体的な解決策を提案します。また、今後の展望についても考察し、読者の皆様がGX建機の普及に貢献するための具体的な行動指針を提供します。
現状と課題
研究会の中間とりまとめによると、建設機械の脱炭素化は、建設・不動産業界におけるCO2排出削減やESG経営の手段として注目されており、欧州などでは電動化に向けた政策誘導が進んでいます。しかし、我が国の建設機械産業は国際的に高い競争力を有している一方で、電動化等の動向に対応したパワートレインの多様化が急務となっています。国内では、電動や水素燃料など、稼働時にCO2を排出しない建設機械を「GX建設機械」として認定する制度が国土交通省によって開始されていますが、その普及はまだ始まったばかりです。 建設機械の稼働によるCO2排出量は、国内産業部門の約34.0%のうち約1.7%を占めており(2022年度)、その削減は喫緊の課題です。建設機械には、油圧ショベル、ミニショベル、ホイールローダーなど様々なタイプが存在し、それぞれ用途や規模が異なります。特に、油圧技術を中心とした高い施工性、耐久性、品質が国際競争力の源泉となっています。 しかし、グローバル市場では、中国企業の台頭が著しく、日本企業のシェアは相対的に低下しています。2022年のグローバル建機売上高シェアでは、日本は米国に次ぐ2位ですが、中国企業が3位に迫っています。この状況下で、日本が競争力を維持するためには、GX建機の普及を加速させ、新たな市場を創出する必要があります。 GX建機普及の課題として、まず挙げられるのが、建機本体と充電設備のコストです。電動化に伴う初期コストの増加は、導入の大きな障壁となっています。また、施工現場における充電ニーズや、建機の電動化を通じた施工現場のGX化(工具や建設機材の電動化)も課題です。さらに、中古建機の適切な販売価格の維持(バッテリー残存価値の可視化、バッテリー部分の分離、蓄電池における定置用等の2次利用先の検討)や、経済性のあるリユース・リサイクル体制の検討も重要です。 蓄電池サプライチェーンの構築も課題です。中国が蓄電池分野で実績を上げている中、我が国企業も廉価で安定的なサプライチェーンを構築する必要があります。セル/モジュール単位での各社協調によるコスト低減と、パック化やバッテリーマネジメントシステム(BMS)での各社差別化を両立させることが求められます。 政府の政策推進も重要です。建機本体の導入コスト支援だけでなく、充電インフラ整備、協調領域の技術開発支援、公共工事における電動建機導入の促進、グレーゾーン解消制度等を活用した規制の明確化、海外市場獲得を見据えた国際的な制度ハーモナイゼーション(ISO/JIS、欧州バッテリー規則等)を関係省庁で連携し進める必要があります。 さらに、建設・不動産業界における脱炭素化の動きも加速しており、建設プロセスでのCO2排出量の可視化や制限が求められています。欧州では、既に建設プロセスでのCO2排出量を可視化・制限する規制導入が進んでいます。 また、欧米主要建機メーカーは、ESG経営を重視し、自社の社会的責任だけでなく、ユーザー業界のESG経営やGXニーズの高まりに対応するために自社の変革を推進しています。VolvoやCaterpillarなどの大手メーカーは、持続可能な社会実現に向けた取り組みを強化し、ESG関連情報を開示しています。 一方、中国政府もESG経営に向けた情報開示の指針を発表し、中国系建機メーカーもESG経営の枠組み導入を加速しています。これにより、電動建機の海外輸出を強化する可能性もあり、動向の注視が必要です。 さらに、不動産業界ではESG経営を牽引するスキームが導入されており、建設業界でもESG経営の推進が求められています。不動産特化のESG評価枠組みであるGRESBがグローバルで導入されており、建設会社もESGへの取り組みを推進する必要があります。 国内大手ゼネコンも、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、施工プロセスにおける電動建機の導入や水素燃料等のクリーン燃料活用等によるCO2排出量削減を目指しています。また、国内大手デベロッパーも、調達・運用を中心にCO2排出削減を進めており、建設プロセスのCO2排出削減にも着手するプレイヤーも存在します。 資源メジャーも、政府主導でのCN化に関する規制はないものの、大手各社は建機メーカーとCN化に向けた提携を推進しており、鉱山シーンでの電動化が加速すると予想されます。 このように、建設業界を取り巻く環境は大きく変化しており、GX建機の普及は、単なる環境対策だけでなく、産業競争力強化の観点からも不可欠となっています。
解決への取り組み
研究会では、これらの課題を解決するために、具体的な取り組みが提案されています。まず、GX建機の導入促進に向けて、投資促進策を検討するとともに、国際的な競争力の獲得も見据えた、以下の対応策が挙げられています。 1) 施工現場における充電インフラの整備:施工現場に応じた定置式・可搬式の充電設備の使い分けや充電サービサーの創出を促進します。充電規格の統一化も重要な課題です。 2) 協調領域の技術開発:セル/モジュール単位での各社協調によるコスト低減と、パック化やBMSでの各社差別化を両立させます。また、バッテリーの残存価値評価や二次利用に向けた健全性評価についても協調領域として検討します。 3) 中古建機の適切な販売価格の維持:電動化により価値の棄損が懸念される中古建機について、バッテリー残存価値の可視化や劣化状況の把握、バッテリーを定置用等に二次利用(リユース)するための技術開発等を進めます。 4) 関係規制適用の整理:GX建機に対する規制適用の整理(定置式/可搬式双方の急速充電等)、水素利用建機等のインフラ整備・技術開発、電動をはじめ、水素建機等の運用・整備等に対応できる人材確保・育成を進めます。 また、GX建機の普及シナリオとして、小型建機から電動化を進め、中長期で中大型建機の水素や代替燃料等によるGX化が進むと仮定しています。特に、電動ショベルを対象とした「最大導入シナリオ」を策定し、2030年、2040年の電動化率目標を設定しました。ミニショベルでは2030年に10%、2040年に30%、油圧ショベルでは2030年に5%、2040年に20%の電動化率を見込んでいます。 さらに、環境省の「商用車等の電動化促進事業」に新たに建機を位置づけ、普及初期の導入加速を支援し、価格低減による産業競争力強化と経済成長、温室効果ガスの排出削減の実現を目指します。 建機メーカーは、電動化製品の開発を加速させ、小型サイズの建機から電動化を進める一方で、大型建機に対する動力源はバッテリー以外の複数の選択肢を残す必要があります。また、バリューチェーンにおける強みを維持するために、コアコンポーネントの技術確立、高品質・高耐久の建機開発、高い残価の維持、ICTソリューションの提供などを強化する必要があります。 さらに、電動建機の”循環型”ビジネスモデルを構築し、ディーゼル建機のビジネスモデルに、バッテリー搭載の移動式急速充電と中古建機の残価把握の仕組みを構築することが求められます。具体的には、セル/モジュール規格の共通化、高出力の移動式急速充電ソリューションの提供、バッテリーの2次利用先の検討、リサイクルスキームの確立などが重要です。 欧米では、主要建機メーカーがバッテリーサプライチェーンの内製化を進めており、日本でも同様の動きが求められます。また、バッテリマネジメントシステム(BMS)などの差別化要素を強化し、競争力を高める必要があります。 充電サービスについては、十分な充電出力によりダウンタイムを最小化するとともに、多様な利用シーンをカバーできる方式を準備する必要があります。具体的には、サイトで設置施工し系統と接続する方式、サイトに据え置くだけで移動可能な方式、バッテリー交換式など、様々な方式を検討する必要があります。 また、カーボンフットプリント(CFP)の重要性が高まっており、欧米では規制導入の動向や資金調達時の脱炭素の取組に関する情報開示への期待が高まっています。CFP情報開示や削減に対する重要性も高まっており、サプライチェーン全体でのCFP把握が求められます。 建機業界では、CFP情報開示の仕組みを先駆けて構築し、建設プロセスのみに留まらず、上下流プロセスへCFP情報開示を進め、日本の優位性確保を目指す必要があります。また、他業界のCFP情報開示の動向も参考に、業界として同一P/Fでの活動を推進し、活動を業界外にも波及させていくことも必要です。 さらに、ICT施工の導入も重要です。建設施工分野における2050年カーボンニュートラルの実現に向け、GX建設機械の普及拡大とともに、情報通信技術を活用した「ICT施工」等の効率的な施工方法の普及拡大によるCO2の削減が必要です。ICT施工は来年度より一部の工種を対象に使用が原則化されるため、GX建機は既に認定制度が開始されており、今後、認定建機使用のインセンティブ付与の方法等も検討する必要があります。 これらの取り組みを進める上で、建設機械の電動化によって失われる強みを補完し、新たな価値を提供する必要があります。具体的には、作業環境の改善、作業範囲の拡大、メンテナンスのしやすさ、オイル類等の定期交換部品の削減などが挙げられます。
今後の展望
GX建機の普及は、建設業界の未来を左右する重要な取り組みです。本記事で解説したように、課題は山積していますが、それらを一つずつ解決していくことで、持続可能な社会の実現と、建設業界の競争力強化を両立させることが可能です。 今後は、電動建機の普及を加速させるとともに、水素燃料や合成燃料などの代替燃料の活用も視野に入れる必要があります。また、建設現場における充電インフラの整備や、バッテリーのリユース・リサイクル体制の構築も急務です。 さらに、ICT施工の導入を拡大し、建設プロセスの効率化を図ることも重要です。これらの取り組みを通じて、建設業界全体の脱炭素化を推進し、持続可能な社会の実現に貢献していく必要があります。 読者の皆様には、本記事で解説した内容を参考に、GX建機の導入に向けた具体的な行動を検討していただきたいと思います。メーカーの方は、GX建機の開発・製造を加速させ、ユーザーの方は、GX建機の導入を積極的に検討してください。また、政府や関係機関は、GX建機の普及を支援するための政策や制度を整備する必要があります。 建設業界全体で協力し、GX建機の普及を推進することで、持続可能な社会の実現に貢献していきましょう。 最後に、本記事が、GX建機の普及に向けた皆様の取り組みの一助となれば幸いです。 GX建機に関するご意見やご質問、また、導入に関するご相談など、お気軽にお問い合わせください。 Photo by Naoki Suzuki on Unsplash
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