Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2025/1/31

監査提言集2024年版から学ぶ不正リスク:実践的アプローチ

はじめに

企業の健全な成長と投資家の保護において、財務諸表監査は非常に重要な役割を担っています。しかし、現代の複雑化するビジネス環境では、不正による虚偽表示のリスクが常に存在し、監査人はそれらを見抜くための高度な専門性と警戒心が求められています。 日本公認会計士協会が発行する「監査提言集」は、会員の監査業務の適正な運用と発展を支援するため、毎年公表されており、監査実務における重要な指針となっています。 2024年版の監査提言集では、掲載事例やコラムが追加され、最新の監査基準報告書や実務指針に対応した改訂が行われています。本記事では、この監査提言集の内容を基に、監査人が直面する不正リスクの現状と課題、そしてそれらに対する具体的な解決策について考察します。 監査の現場で日々課題に直面している皆様にとって、本記事が少しでも実践的な参考になれば幸いです。

現状と課題

監査提言集(2024年版)によると、監査人は財務諸表の信頼性を確保する上で、様々な不正リスクに直面しています。例えば、会計記録の矛盾、証拠の矛盾や紛失、経営者の監査への非協力、通例でない取引など、多様な不正の兆候を識別する必要があります。 これらのリスクは、企業の規模や業種、内部統制の状況、そして経営者の姿勢など、多岐にわたる要因によって複雑に絡み合っています。 監査提言集では、具体的な事例を交えながら、これらのリスクを詳細に分析しています。例えば、あるケースでは、取引先からの連絡により架空売上が発覚した事例が紹介されています。監査人は、取引先からの直接的な連絡という重要な情報を見過ごさず、追加的な監査手続を実施する必要があると指摘されています。また、形式的な内部統制の評価だけでは、リスクの適切な識別・評価につながらないことも強調されています。 別の事例では、ソフトウェア開発会社における恣意的なフェーズ分けによる売上計上や、経営者主導による架空売買取引など、より複雑な不正の手口が紹介されています。 これらの事例から、監査人は、形式的なチェックだけでなく、ビジネスの理解や一般常識を踏まえ、常に懐疑心を持って監査業務を行う必要があることが示唆されています。 また、監査人が入手する証拠の信頼性についても、常に批判的な視点を持つ必要性が指摘されています。例えば、監査提言集では、監査証拠の十分性について、「必要とされる監査証拠の量は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度及び監査証拠の質によって影響を受ける」と記載されており、監査人が入手する証拠の証明力の強弱を適切に評価することの重要性を示唆しています。 「報告書によると」「調査では」などの情報源を適切に示す表現や、具体的なデータや事例を交えた分析は、監査の実務において不可欠です。 さらに、近年の動向として、グループ企業間の取引における不正リスクの重要性も増しています。 監査人は、連結財務諸表だけでなく、子会社や関連会社における不正リスクも考慮し、グループ全体としてリスク評価を行う必要があります。 監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」の改訂を踏まえ、構成単位の監査人とのコミュニケーションを密にし、リスク評価を共有することが求められています。例えば、監査提言集では、構成単位の監査人とのコミュニケーションについて、構成単位の監査人から報告された事項について、その重要性を評価し、グループ監査チームがその内容を理解し、グループ監査計画を立案し、実施する必要があると述べています。 これらの事例やデータから、現代の監査人が直面する課題は、単に会計基準を遵守するだけでなく、企業環境全体を理解し、不正リスクを予測し、それらに対応する高度な専門性を継続的に向上させていく必要があると言えるでしょう。

解決への取り組み

監査提言集では、上記のような現状と課題を踏まえ、具体的な解決策が提示されています。 まず、監査計画段階においては、リスクアプローチに基づいた監査が重要であると強調されています。 形式的な内部統制の評価だけではなく、ビジネスモデルや企業環境を深く理解し、不正リスクを適切に識別・評価する必要があります。 そのため、監査人は、業界慣行という言葉に捉われず、一般的なビジネスに関する知識や一般常識を踏まえることも必要です。例えば、監査提言集では、「業界慣行という言葉に捉われず、一般的なビジネスに関する知識や一般常識を踏まえることも必要である。」と述べています。 新規事業等への参入は、新たな重要な虚偽表示リスクを生み出す可能性があるため、特に注意が必要です。例えば、監査提言集では、「新規事業等への参入は、新たな重要な虚偽表示リスクを生み出すことがあることを理解する。」と述べています。 不正リスクを識別した後には、効果的な監査手続を具体的に検討し、納得感が得られるまで慎重に実施する必要があります。 入手した監査証拠の証明力の強弱を適切に評価し、質問の回答を鵜呑みにせず、裏付けとなる証拠を入手することが重要です。 また、契約書等の証憑が揃っていることと、取引が実在することとは必ずしも同じではない場合があることにも留意が必要です。入出金の事実も過信せず、取引の実態を多面的に検証することが求められています。例えば、監査提言集では、「契約書等の証憑が揃っていることと、取引が実在することとは必ずしも同じでない場合があることを理解する。入出金の事実も過信しない。」と述べています。 監査手続の実施においては、監査調書の重要性も強調されており、監査人の行為の正当性を立証する唯一のものであるとされています。監査調書は適時に作成し、適切に整理し保存する必要があります。 会計基準の適用においては、その設定趣旨を尊重した正しい理解が不可欠であり、会計上の見積りを行う際には、その仮定や方法を十分に理解する必要があります。 特に、連結子会社等にも虚偽表示リスクは親会社と同様に存在するため、グループ全体と構成単位の環境の理解を深める必要があります。 時間的制約のある監査人交代は、監査リスクが著しく高いことがあるため、引き継ぎは慎重に進める必要があります。 監査手続を実施する際には、監査チーム内での連携を密にし、情報共有を徹底することが重要です。例えば、監査提言集では、「監査手続を実施する際には、監査チーム内での連携を密にし、情報共有を徹底することが重要である。」と述べています。 これらの解決策は、監査人が不正リスクを適切に識別し、それらに対応するための手続を具体的に立案・実施するための実践的なアプローチを示しています。 監査手続は、納得できるまで慎重に実施し、必要な監査証拠を入手し、監査証拠の証明力を適切に評価することが重要です。

今後の展望

監査提言集(2024年版)は、監査業務の質的向上と不正リスクへの対応力強化に向けた重要な一歩を示しています。 しかし、監査環境は常に変化しており、不正の手口も巧妙化していくため、監査人は常に最新の情報を収集し、自己研鑽に励む必要があります。 監査人は、財務諸表に信頼性を付与するという監査の目的と役割を忘れてはなりません。 今後は、AIやデータ分析などの新しい技術を積極的に活用し、監査の効率化と高度化を図ることも検討していく必要があります。 監査業務においては、形式的な監査手続に終始するのではなく、常に職業的懐疑心を持ち、批判的な視点で監査業務を行う必要があります。 監査人は、企業のビジネスモデル、業界の動向、内部統制の状況、そして経営者の姿勢など、多岐にわたる要因を総合的に考慮し、不正リスクを評価する必要があります。 監査報告書には、監査人の専門的な判断と責任が込められていることを理解し、常に誠実かつ公正な監査業務を行うことが求められています。 最後に、読者の皆様には、本記事で紹介した監査提言集の内容を参考に、自社の監査業務を見直し、不正リスクへの対応力を強化していただくことを願っています。 監査は、単に過去の会計処理を検証するだけでなく、企業の将来の健全な成長を促すための重要な活動であることを忘れずに、日々の業務に励んでいきましょう。 具体的な監査手続やリスク評価に関するご質問、監査業務に関するご相談は、日本公認会計士協会までお問い合わせください。 また、監査提言集は、日本公認会計士協会のウェブサイトから入手できますので、更なる知識の習得と監査実務の向上にお役立てください。 Photo by B&W Studio on Unsplash

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