Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2025/9/22

成長企業の資金調達を加速するエクイティ・グロース市場の戦略的活用法

なぜ今、成長企業に特化した株式市場が重要なのか

急成長段階にある企業の経営者各位は、事業拡大に必要な資金調達の課題に日々直面されていることでしょう。伝統的な銀行融資では、担保不足や安定したキャッシュフローの欠如といった理由から資金調達が困難な状況で、どのようにして次の成長ステージに必要な資本を確保すべきかお悩みではないでしょうか。OECDの最新報告書「Equity Markets for Growth Companies」によると、世界59の法域で16,247社以上の成長企業が、主要市場とは異なる特化した株式市場を活用して上場しています。本記事では、これらの「エクイティ・グロース市場」の本質的な価値と、経営者視点での具体的な活用方法、留意点を詳しく解説します。成長企業の資金調達戦略において、なぜこれらの市場が重要な選択肢となり得るのか、その核心を明らかにしていきます。

エクイティ・グロース市場の仕組みと企業への真のメリット・デメリット

エクイティ・グロース市場は、急成長段階にある企業がより柔軟な上場要件で資金調達を実現できるよう設計された市場セグメントです。OECDの調査によると、世界では2023年末時点で16,247社の成長企業がこれらの市場に上場しており、その時価総額は4兆米ドルに達しています。特にアジア地域が成長市場の中心となっており、全世界の成長企業上場数の半数以上、時価総額の80%を占めています。

成長市場の最大の特徴は、主要市場よりも緩和された上場要件にあります。IPOにおける監査済み財務諸表の提出年数に関して、主要市場では25法域で3年間の提出が求められるのに対し、成長市場では15法域で2年間、8法域で1年間のみの提出で足ります。また、財務実績要件についても、主要市場では19法域で最低利益や収益水準が要求されるのに対し、成長市場では11法域のみとなっています。このような柔軟な規制環境が、財務実績が不安定でも成長ポテンシャルの高い企業の上場を可能にしているのです。

成長市場を活用する主なメリットとしては、まず資金調達機会の拡大が挙げられます。2023年時点で、成長市場からの調達額は3130億米ドルに達し、主要市場の3分の1の規模となっています。また、上場による企業の認知度向上、経営の透明性向上、将来の主要市場への移行可能性など、資金調達以外の副次的効果も見逃せません。特に技術、工業、ヘルスケア分野の企業にとっては、業界特有の成長曲線に合わせた資金調達が可能となる点が大きな強みです。

一方で、留意すべきデメリットも存在します。成長市場は流動性が低い傾向があり、機関投資家の参加が限定的となる場合があります。実際、機関投資家の保有割合は成長市場で18%であるのに対し、主要市場では46%と大きな開きがあります。また、上場後の継続的開示義務やコーポレートガバナンス要件は主要市場より緩和されているものの、依然として一定のコストとリソースを要します。さらに、戦略的個人(創業者等)の株式保有割合が高いため(成長市場27% vs 主要市場7%)、経営陣と株主間の利益調整が複雑化するリスクもあります。

専門家視点1:エクイティ・グロース市場を活かす事業・実行戦略のポイント

成長市場への上場を成功させるには、綿密な準備と戦略的なアプローチが不可欠です。まず最初のステップとして、自社が成長市場の上場要件を満たしているかどうかの評価から始めましょう。OECD調査によると、30法域中19法域で成長市場上場にアドバイザーの関与が義務付けられており、そのうち13法域では上場期間全体を通じたアドバイザーの継続的関与が必要です。アドバイザーは、上場準備から継続的開示まで一貫した支援を提供し、規制遵守を確保する重要な役割を果たします。

2つ目のステップとして、上場後の経営体制とガバナンス構造の整備が挙げられます。成長市場ではコーポレートガバナンス要件が柔軟に適用される場合が多いものの、投資家からの信頼獲得のためには自主的なガバナンス強化が有効です。例えば、取締役会の独立性に関して、主要市場では26法域中26法域で何らかの要件があるのに対し、成長市場では17法域のみですが、自主的に独立取締役を設置することは企業価値の向上に寄与します。

3つ目のステップとして、上場後の資金調達戦略の事前策定が重要です。成長市場ではフォローオンオファー(追加資金調達)の要件も緩和されている場合が多く、25法域では調達目的と資金使途の開示が求められる一方、11法域ではプライベートプレイスメントにおける開示要件が免除されています。上場前から中長期的な資金調達計画を策定しておくことで、成長段階に応じた最適な資金調達が可能となります。

専門家視点2:エクイティ・グロース市場導入・活用のための財務・資金調達

成長市場への上場には、初期費用と継続的コストの両面を考慮する必要があります。初期上場費用は市場 capitalization に応じて変動し、時価総額1000万米ドルの企業の場合、スウェーデンのFirst North Growth Marketでは0.35%、英国のAIMでは0.25%、シンガポールのCatalistでは0.24%の費用が相対的に高くなります。しかし、時価総額が4000万米ドルに達すると、これらの比率は大幅に減少し、規模の経済が働くことがわかります。

資金調達の観点では、多くの法域で政府主導の支援策が用意されています。シンガポールでは金融庁がIPO費用の20%(最大30万SGD)を補助する制度を設けており、日本では福島県などの地方自治体が上場準備費用の半額(最大5億円)を支援するプログラムを実施しています。また、イタリアではEU域内市場への上場を目指す中小企業に対し、コンサルティング費用の50%(最大50万ユーロ)の税額控除を認めています。

会計・税務面での留意点としては、成長市場では簡便な会計基準の採用が認められている点が挙げられます。19法域では成長市場上場企業に対し、IFRSではなくローカルGAAPやIFRS for SMEsの使用が許可されており、会計コストの削減が可能です。また、13法域では四半期報告ではなく半期報告のみで足りるなど、報告頻度の軽減も図られています。

専門家視点3:エクイティ・グロース市場に伴うリスクとその管理術

成長市場を活用する上で認識すべき主要なリスクとして、流動性リスクが最も重要です。創業者や主要株主による株式保有割合が高いため、市場で取引可能な浮動株が限られており、株価の変動性が高まる傾向があります。このリスクを軽減するためには、13法域で導入されているマーケットメイカー制度の活用が有効です。マーケットメイカーは流動性を提供し、取引の円滑化を図る役割を果たします。

情報非対称性リスクも無視できません。OECD調査によると、54%の法域で成長企業に関するリサーチ情報が限られていると報告されています。このリスクに対処するためには、自社発信による情報開示の充実が不可欠です。6法域ではリサーチカバレッジを拡大するための補助金制度が設けられており、オーストラリア証券取引所のEquity Research SchemeやスペインのLighthouseプロジェクトなどの事例から学ぶことができます。

規制リスクとしては、上場維持要件を満たせない場合のデリストリスクが挙げられます。22法域では財務情報の開示遅延、12法域では最低浮動株比率の違反、12法域ではアドバイザー不在をデリストのトリガーとしています。これらのリスクを管理するためには、早期警告システムの構築と継続的なコンプライアンス体制の整備が求められます。

事例から学ぶ成功法則:エクイティ・グロース市場を活かした企業の挑戦

スウェーデンのFirst North Growth Marketでは、認証アドバイザー制度が成長企業の上場成功に重要な役割を果たしています。ある医療技術企業は、上場前に認証アドバイザーの指導のもとでコーポレートガバナンス体制を整備し、独立取締役の任命や内部統制システムの構築を実施しました。その結果、機関投資家からの評価を得て、上場後3年で主要市場への移行を実現しています。この企業の成功要因は、単なる資金調達ではなく、上場を通じた経営基盤の強化に重点を置いた点にありました。

カナダのTSX Venture Exchangeを活用したある資源開発企業は、上場後も継続的な探査活動の開示を徹底し、投資家との対話を重視する姿勢を貫きました。マーケットメイカーの支援を得て流動性を確保するとともに、四半期ごとの事業進捗報告を詳細に行うことで、業績が不安定な段階でも投資家の理解を得ることに成功しています。この企業の事例から学べるのは、成長段階にある企業こそ、透明性の高い情報開示が長期の投資家関係構築に不可欠であるという点です。

日本の成長市場を活用したあるテクノロジー企業は、上場前に経営陣自らが機関投資家に対して直接プレゼンテーションを行うなど、積極的なIR活動を展開しました。また、自社の技術優位性を理解してもらうため、専門家向けの技術解説セミナーを定期的に開催するなど、独自の投資家コミュニケーション戦略を構築しています。この企業が直面した課題は、専門的な技術内容を如何に分かりやすく伝えるかという点でしたが、ビジュアルを活用した説明資料の作成と、アナリスト向けの技術ワークショップの開催によってこの課題を克服しています。

実行への第一歩:エクイティ・グロース市場導入に向けた準備と専門家活用の判断基準

成長市場の活用を検討する際に、明日からでも始められる具体的なアクションとして、まず自社の上場適格性評価があります。自社の財務状況、成長段階、資金調達ニーズを客観的に分析し、どの成長市場が最適かを検討することから始めましょう。同時に、潜在的なアドバイザー候補との初期相談をスケジュールに組み込むことも有効です。OECD調査によると、成長市場上場企業の70%以上が何らかの形で専門家の支援を受けており、早期からの専門家関与の重要性が示されています。

自社単独での成長市場活用が困難な場合、専門家への相談には明確なメリットがあります。公認会計士やコンサルタントなどの専門家は、単なる規制遵守の支援だけでなく、業界動向や投資家の選好を踏まえた戦略的アドバイスを提供できます。特に、上場のタイミングや調達規模の決定、将来の主要市場移行の可能性など、経営全体に影響する判断において、専門家の客観的視点は極めて価値があります。

専門家を選定する際の判断基準としては、当該成長市場での実績豊富なこと、業界知識を有すること、中長期的な伴走支援が可能なことの3点が重要です。また、費用対効果の観点から、成功報酬型の契約が可能かどうかも検討すべきポイントとなります。成長市場への上場は単なる資金調達手段ではなく、企業の成長段階に合わせた戦略的選択肢であることを認識し、専門家とともに貴社に最適な道筋を描くことが成功のカギとなります。

未来を切り拓くために:エクイティ・グロース市場で実現する企業の持続的成長

エクイティ・グロース市場の戦略的活用は、単なる資金調達手段を超え、企業の持続的成長を支える基盤づくりに他なりません。適切に設計された成長市場戦略は、資金調達の効率化だけでなく、経営の透明性向上、ブランド価値の強化、将来の主要市場移行への道筋づくりなど、多面的な価値を生み出します。世界で16,000社以上の成長企業がこれらの市場を活用している事実は、その有効性を雄弁に物語っています。

貴社の成長段階と資金調達ニーズに合わせた最適な市場選択と、専門家の知見を活かした戦略的アプローチにより、エクイティ・グロース市場は強力な成長のエンジンとなり得ます。まずは自社の現状を客観的に評価し、具体的な一歩を踏み出すことをお勧めします。エクイティ・グロース市場の貴社への具体的な導入可能性や、それに伴う経営全般(資金、戦略、リスク管理など)への影響について、全体最適の視点からアドバイスできる専門家へのご相談も有効な手段です。もしご関心があれば、お気軽にお問い合わせください。

Photo by Nicolas Caetano on Unsplash

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