Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2024/10/3

サイバーリスク保護ギャップの克服

はじめに

現代社会は、デジタル技術に強く依存するようになり、それに伴ってサイバーリスクが急速に拡大しています。企業や国家のインフラがサイバー攻撃の脅威にさらされる中、そのリスクをどのように管理し、対応するかが重要な課題です。特に、サイバーリスクに対して保険がどの程度カバーできるかという「サイバーリスク保護ギャップ」が注目されています。このギャップは、経済的損失を軽減するために、どのように埋めるべきかという問題に直面しています。 本記事では、サイバーリスク保護ギャップという課題に焦点を当て、保険業界と公共セクターがどのように連携して社会全体のレジリエンスを向上させることができるかを探ります。また、サイバーリスクの最新トレンドや課題、実践的な解決策についても詳しく解説します。

サイバーリスク保護ギャップの現状

サイバーリスクの進化と保険業界の対応

サイバー攻撃が進化するにつれて、経済的損失のリスクも増大しています。たとえば、2022年にはサイバー攻撃による損失が世界で8.5兆ドルに達し、2027年には24兆ドルにまで増加すると予測されています。しかし、現在のサイバー保険市場では、この膨大な損失のわずか1%しかカバーできていないという現実があります。この「サイバーリスク保護ギャップ」は、保険市場が急速に進化するサイバーリスクに追随できていないことを示しています。 また、保険業界が提供するサイバーリスク保険商品は、主に大企業向けに設計されており、中小企業にとっては十分なカバーを提供できていない状況が続いています。中小企業は特にサイバー攻撃に対して脆弱であり、予算やリソースの制約からサイバーセキュリティへの対策が不十分なことが多いです。2024年のミュンヘンReの調査によれば、87%の意思決定者が自社がサイバーリスクに対して十分な保護を受けていないと感じているというデータがあります。このような状況が続く限り、サイバーリスク保護ギャップはさらに拡大するリスクがあります。

サイバーリスク保護ギャップの原因と対策

この保護ギャップが生じる主な原因として、以下の3つが挙げられます: 1. **リスクの急速な進化**:サイバー攻撃の手法は日々進化しており、特に生成型AIなどの新技術がサイバー攻撃者に新たな攻撃手段を提供しています。これに伴い、保険業界はこれらの新しいリスクに対応するためのスピードを欠いています。 2. **保険商品の制約**:サイバー保険商品の設計において、カバー範囲や保険料の設定が不十分であり、特に中小企業向けの商品が不足しています。 3. **データ不足とリスクモデルの未成熟**:サイバーリスクの定量化が難しく、保険業界が適切なリスクモデルを構築できていないことが、保険商品の提供を制約しています。 これらの問題に対して、保険業界と公共セクターが連携してリスク管理の精度を高め、保険商品の適用範囲を拡大することが急務です。

サイバーリスクトレンドの影響と機会

サイバー保険市場の成長と課題

サイバーリスクが急増する中、サイバー保険市場は急速に成長しています。2023年のサイバー保険市場の総保険料(GWP)は140億ドルに達し、2027年には290億ドルを超えると予測されています。この成長は、企業がサイバーリスクを保険でカバーしようとする需要が増加していることを示しています。 しかし、サイバー保険市場の成長にもかかわらず、依然として多くの中小企業が保険に未加入、または不十分なカバーしか受けていない状況が続いています。この背景には、サイバー保険商品の複雑さや、企業がリスクを十分に理解していないという問題があります。

地政学的リスクとサイバー攻撃

サイバーリスクは、単に経済的な問題にとどまらず、地政学的な影響も大きく関わっています。特に、国家や国家支援を受けたサイバー攻撃者による攻撃は、政治的・軍事的な意図を持つことが多く、より深刻な脅威となります。たとえば、ロシアや北朝鮮などの国家が関与するサイバー攻撃は、単なる経済的損害を超え、国家の安全保障や国際関係に影響を及ぼすことがあります。 このようなリスクに対応するため、国際的な取り組みが進められています。たとえば、EUのデジタル運営レジリエンス法(DORA)は、金融サービスプロバイダーに対して堅牢なICTリスク管理プロセスを求めており、サイバーリスクの軽減を図っています。

生成型AIの影響

生成型AIなどの新興技術は、サイバーリスクに新たな影響をもたらしています。AI技術は、サイバー攻撃者に高度な攻撃手段を提供する一方で、防御側にもリスク管理を強化する手段を与えています。たとえば、AIを活用して異常なネットワーク活動をリアルタイムで監視し、サイバー攻撃の兆候を早期に検知することが可能です。しかし、AIが攻撃者に利用されるリスクも存在し、保険業界はこれらの新たなリスクをどのようにカバーするかという課題に直面しています。

サイバーリスク解決策のアプローチ

サイバーリスクに対するレジリエンスの強化

サイバーリスクを効果的に管理するためには、まず企業や組織がサイバー攻撃に対するレジリエンスを強化することが重要です。これには、以下のステップが含まれます: - **サイバーセキュリティ教育の推進**:企業の従業員がサイバーリスクについて理解し、適切な行動を取ることが、サイバー攻撃の被害を最小限に抑えるための重要な要素です。教育プログラムを導入し、フィッシング攻撃やランサムウェアに対する対策を徹底することが求められます。 - **サイバーセキュリティへの投資**:企業は、最新のセキュリティ技術やベストプラクティスに対して積極的に投資する必要があります。たとえば、多要素認証(MFA)やゼロトラストセキュリティモデルの導入が有効です。

サイバー保険商品とリスク管理の最適化

サイバーリスクに対して保険が果たす役割は大きいものの、その設計には改善の余地があります。特に、保険契約の言語や適用範囲に不必要な制約や除外を設けないことが重要です。以下の点が重要です: - **保険商品の透明性向上**:サイバー保険契約が複雑すぎると、企業が自社のリスクに応じた適切な保険を選択できなくなります。保険業界は、よりシンプルで理解しやすい保険商品を提供する必要があります。 - **リスクモデルの進化**:サイバーリスクは急速に進化しており、保険業界が新しいリスクモデルを導入してリスクを正確に評価することが求められます。特に、生成型AIや国家支援型のサイバー攻撃に対するリスク評価が重要です。

公共セクターとの連携

サイバーリスクに対しては、保険業界だけでは対応しきれない部分が多く、公共セクターとの連携が不可欠です。特に、大規模なサイバー攻撃に対しては、政府がリスクを分担することが求められます。以下の具体的な連携策があります: - **政府のバックアッププログラム**:米国では、洪水リスクやテロリスクに対する政府のバックアッププログラムが存在し、これにより保険業界がリスクを負担しやすくなっています。同様の枠組みがサイバーリスクにも適用されるべきです。 - **データ共有の枠組み**:保険会社、ブローカー、政府機関がサイバーリスクに関するデータを共有し、より深い洞察を得るためのデータ共有の枠組みを構築することが提案されています。たとえば、米国ではCISA(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャー・セキュリティ庁)がCIDAWGを通じて、保険業界とデータを共有し、サイバーリスクに対する対策を強化しています。

サイバーリスク対応の落とし穴

サイバーリスクに対する対応には、いくつかの誤ったアプローチや誤解も存在します。これらの落とし穴を避けるためには、次のようなポイントに注意する必要があります: - **技術偏重の対策**:サイバーセキュリティ対策を過度に技術的な問題と捉え、人的な要素や組織全体のセキュリティ文化を軽視することは危険です。多くのサイバー攻撃は、人為的なミスやセキュリティ意識の欠如が原因で発生しており、技術だけでは防げないリスクがあります。 - **過度な自信やリスクの過小評価**:企業が「自社は大丈夫」という誤った安心感を持つことは、サイバーリスクに対して脆弱な状態を招きます。サイバー攻撃はあらゆる企業に対して脅威をもたらすため、常に最新の対策を講じる必要があります。

課題解決に向けた重要なステップ

サイバーリスクに効果的に対処するためには、以下のステップが重要です: 1. **サイバーリスクに対する教育と意識向上**:従業員がサイバーリスクを理解し、適切な行動を取ることが、サイバー攻撃の被害を最小限に抑えるための第一歩です。 2. **サイバーセキュリティへの投資拡大**:企業は最新のセキュリティ技術やベストプラクティスを積極的に導入し、リスクを最小限に抑えるための防御策を整える必要があります。 3. **公共と民間のパートナーシップ強化**:政府と保険業界が連携し、データ共有やリスク管理の枠組みを構築することが求められます。

まとめ:サイバーリスク保護ギャップの縮小に向けて

サイバーリスク保護ギャップを埋めるためには、保険業界と公共セクターが連携し、包括的な枠組みを構築することが不可欠です。サイバーリスクは常に進化しており、従来のアプローチでは十分に対応できないリスクが増えています。保険業界は、より包括的な保険商品を提供し、企業がサイバー攻撃に対するレジリエンスを高めるためのサポートを提供する必要があります。 また、データ共有の枠組みを構築し、リスク管理の精度を向上させることで、サイバーリスク保護ギャップの縮小に貢献できます。サイバーリスクに対する社会全体の防御力を強化し、経済的損失を最小限に抑えるためには、迅速かつ包括的な対応が求められています。 Photo by HIROYUKI KAWAI on Unsplash

無料計算ツールをご活用ください

経営判断に役立つシミュレーションツールをご用意しています。登録不要ですぐにご利用いただけます。

← ホームに戻る