2025/2/2
2023年版コーポレートガバナンス白書:変革期の企業統治を読み解く
はじめに
東京証券取引所(以下、TSE)は、上場企業のコーポレートガバナンスに関する取り組みの現状と進捗を多角的に把握するため、上場企業が提出するコーポレートガバナンス・レポート(以下、CGレポート)のデータに基づき、2年ごとに「コーポレートガバナンス白書」を発行しています。この白書は、上場企業が自社の現状を評価するためのツールとして活用されることを期待するとともに、投資家が上場企業のコーポレートガバナンスの最新状況を把握し、建設的な対話を行うための出発点となることを目指しています。 2023年版の白書は、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード(以下、コード)の改訂と、2022年4月の市場区分再編を踏まえ、構成を刷新しました。市場や投資家からの関心が高いテーマに焦点を当てたケーススタディを収集・分析し、上場企業が自社の立ち位置を確認し、さらなる取り組みを促進するための有益な情報を提供しています。また、コードへの具体的な対応を検討・実施する際に参考となる、政府省庁やその他の機関が近年公表した政策やガイドラインなどの概要もコラムとして掲載しています。 この白書の内容が、わが国のコーポレートガバナンスに関わる方々が、変化し続ける上場企業の取り組みを把握し、ひいては上場企業および市場全体のコーポレートガバナンスの実効性向上に貢献することを願っています。
現状と課題
本白書では、2022年7月14日までに提出されたCGレポートのデータに基づき、プライム、スタンダード、グロース市場に上場する全3,770社を分析対象としています。また、過去の調査データも参照し、数値の変化を適宜記述しています。 分析対象企業の属性として、市場区分ではプライム市場が1,837社、スタンダード市場が1,456社、グロース市場が477社となっています。JPX日経インデックス400の構成銘柄は399社です。なお、315社(8.4%)が国内の他の取引所に重複上場しています。 会計年度末については、3月決算を採用する企業が61.0%と最も多くなっていますが、3月決算を採用する企業の割合は年々減少傾向にあり、2006年の76.4%から15.4ポイント減少しています。市場区分別に見ると、プライム市場(68.0%)とスタンダード市場(62.2%)で3月決算の割合が高い一方、グロース市場では30.6%にとどまり、12月決算や9月決算を採用する企業も見られます。 従業員数(連結)では、1,000人以上の企業が全体の42.2%を占めています。市場区分別では、プライム市場では1,000人以上の企業が71.2%と最も高い割合を占める一方、スタンダード市場とグロース市場では100人以上500人未満の企業がそれぞれ48.1%と50.1%を占めています。 連結売上高では、100億円以上1,000億円未満の企業が46.1%と最も高い割合を占めています。市場区分別では、売上高の大きい企業の割合はプライム、スタンダード、グロース市場の順に高くなる傾向があります。JPX日経400構成銘柄では、1,000億円以上の企業が89.5%を占め、1兆円以上の企業も30.6%を占めています。 時価総額では、プライム市場は時価総額の大きい企業の割合が高い傾向にあります。一方、スタンダード市場とグロース市場では、時価総額100億円未満の企業がそれぞれ71.7%と66.2%を占め、時価総額の小さい企業が多い傾向があります。JPX日経400構成銘柄では、時価総額1,000億円以上の企業が95.9%を占め、1兆円以上の企業も31.6%を占めています。 連結子会社数では、10社未満の企業が61.9%を占めています。市場区分別では、10社以上の連結子会社を持つ企業の割合はプライム市場(60.4%)が最も高く、次いでスタンダード市場(14.7%)、グロース市場(6.7%)となっています。JPX日経400構成銘柄では、10社以上の連結子会社を持つ企業が85.2%を占めています。 外国人株主比率では、プライム市場は外国人株主比率の高い企業の割合が高い傾向にあります。具体的には、プライム市場上場企業の15.3%が外国人株主比率30%以上であるのに対し、スタンダード市場では3.0%、グロース市場では6.3%となっています。JPX日経400構成銘柄では、外国人株主比率30%以上の企業が43.1%と特に高くなっています。 大株主の株主構成では、最大株主の株主比率が20%以上の企業の割合がグロース市場(71.9%)で最も高く、次いでスタンダード市場(51.7%)、プライム市場(36.7%)となっています。 支配株主・親会社の有無については、支配株主を持つ企業が全体の15.8%を占めています。このうち、親会社を持つ企業は8.5%、親会社以外の支配株主を持つ企業は7.3%となっています。親会社を持つ企業のうち、親会社が上場している企業は80.9%です。支配株主を持つ企業の割合は、2013年のTSEと旧大阪証券取引所の統合時にJASDAQ市場が加わった際にわずかに増加しましたが、その後、親会社を持つ企業は減少傾向にあり、親会社以外の支配株主を持つ企業は2020年まで増加傾向にありました。しかし、2022年には、市場区分の見直しに伴う流通株式比率基準の見直しや、上場維持基準としての流通株式比率基準の設定に伴い、流動性向上を目的とした二次募集や事業ポートフォリオの見直し、親子上場解消の動きが見られ、親会社を持つ企業と親会社以外の支配株主を持つ企業の両方で割合が減少しています。 市場区分別では、親会社が上場している企業はスタンダード市場(8.7%)で割合が高くなっています。親会社以外の支配株主を持つ企業の割合はグロース市場(23.5%)で高く、これはグロース市場に上場する企業の支配株主が創業者などの個人であることが多いことによるものと考えられます。 TSEのコーポレートガバナンスに関する取り組みは、1999年の上場企業へのコーポレートガバナンス強化要請から始まり、2004年には「上場会社におけるコーポレートガバナンスに関する原則」を策定・公表し、株主の権利保護などのガバナンスに期待される機能を整理しました。2006年には、各社のガバナンスへの取り組みを投資家がより明確に把握できるように、「コーポレートガバナンスに関する報告書」の提出を義務化しました。また、2007年には、株主・投資家の保護と公正かつ健全な市場運営を確保するため、有価証券上場規程に「企業行動規範」を制定し、新興市場の上場企業にも基本的なガバナンス体制の構築を義務付けました。2009年には、上場企業における「一般株主」の利益を適切に保護することを目的として、独立役員制度(独立取締役・監査役制度)を導入し、一般株主との利益相反リスクがない独立役員を少なくとも1名以上選任することを義務付けました。 その後、2015年には、持続的な成長と上場企業の中長期的な企業価値向上を目的として、日本のコーポレートガバナンス・コードが策定され、2018年と2021年に2度の改訂が行われました。2022年4月には、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)で構成されていた既存の市場区分を、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編しました。特にプライム市場は、グローバル投資家との建設的な対話を重視する企業のための市場として位置づけられています。このプライム市場のコンセプトに基づき、2021年のコード改訂では、独立社外取締役の1/3以上選任やTCFDに基づく気候変動情報開示の質と量の向上、英語開示の拡充、機関投資家向けの電子議決権プラットフォームの利用など、より高いレベルのガバナンスを目指す規定が盛り込まれました。
解決への取り組み
本白書では、取締役会の機能発揮と多様性の確保、事業ポートフォリオと資本コストの見直し、サステナビリティ課題への取り組み、株主との対話、株主の権利と平等な取り扱い(一般株主と少数株主の保護)という5つのテーマに焦点を当て、上場企業の取り組み状況を分析しています。 取締役会の機能発揮と多様性の確保については、取締役会が企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上にとって最も重要な組織であり、その役割と責任を適切に果たすことが重要であると指摘しています。コードでは、取締役会の役割と責任を明確化しており、取締役会が企業の戦略策定、リスクテイク、監督機能を適切に果たすことを求めています。また、取締役会の構成や独立社外取締役の選任状況、委員会構成などについても詳細な分析を行っています。 事業ポートフォリオと資本コストの見直しについては、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値向上を達成するためには、事業ポートフォリオの見直しや資本コストを意識した経営が不可欠であると指摘しています。コードでは、企業が自社の資本コストを正確に把握し、事業ポートフォリオの見直しや経営資源の配分を適切に行うことを求めています。また、クロス・シェアリングについても、その目的や効果を検証し、必要に応じて縮減する方針を定めることを求めています。 サステナビリティ課題への取り組みについては、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素が企業価値向上に不可欠であるという認識が広まっており、企業はこれらの課題に積極的に取り組むことが求められています。コードでは、サステナビリティ課題を重要な経営課題として認識し、中長期的な企業価値向上に向けた基本方針を策定し、具体的な取り組みを開示することを求めています。また、気候変動関連リスクや収益機会に関する情報開示の質と量の向上、人的資本や知的財産への投資に関する情報開示の促進なども求められています。 株主との対話については、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値向上を達成するためには、株主との建設的な対話が不可欠であると指摘しています。コードでは、企業が株主との対話を促進するための措置や組織体制を整備し、経営方針を分かりやすく説明し、株主の意見や懸念を適切に反映することを求めています。また、株主総会を株主との対話のための重要な場として位置づけ、招集通知の早期発送やピーク日の回避など、株主が積極的に参加しやすい環境を整備することを求めています。 株主の権利と平等な取り扱いについては、上場企業における株主は、多様なステークホルダーの中で最も重要な存在であり、その権利と平等な取り扱いを確保することがコーポレートガバナンスの基本であると指摘しています。コードでは、買収防衛策の導入やグループガバナンスなど、一般株主や少数株主の利益を損なう可能性のある事項について、適切な説明と手続きを求めることで、株主の権利を保護することを求めています。
今後の展望
本白書では、上場企業のコーポレートガバナンスに関する取り組みの現状と課題を分析し、今後の展望について考察しています。 今後、上場企業は、取締役会の機能発揮と多様性の確保、事業ポートフォリオと資本コストの見直し、サステナビリティ課題への取り組み、株主との対話、株主の権利と平等な取り扱いという5つのテーマに沿って、より一層の取り組みを進めることが求められます。特に、グローバル投資家との建設的な対話を重視するプライム市場上場企業は、より高いレベルのガバナンス体制を構築し、その実効性を高めることが重要になります。 また、企業は、変化し続ける社会情勢や国際情勢に対応するため、常に自社のガバナンス体制を見直し、改善していく必要があります。そのためには、取締役会が経営戦略やリスク管理、内部統制などについて継続的に議論し、適切な意思決定を行うことが重要になります。 さらに、企業は、株主や投資家からの期待に応えるため、より透明性の高い情報開示を行い、建設的な対話を通じて信頼関係を構築していく必要があります。そのためには、財務情報だけでなく、非財務情報(ESG情報など)についても積極的に開示し、企業価値向上に向けた取り組みを説明することが重要になります。 Photo by N Suma on Unsplash
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