2024/9/19
日本企業の未来を切り拓く「稼ぐ力」強化とコーポレートガバナンス改革
はじめに
日本経済は長期にわたるデフレと低成長に苦しんでおり、企業の「稼ぐ力」—すなわち収益力や競争力—の向上が急務となっています。この背景には、企業が長期間にわたりコスト削減を優先し、投資を控えた結果、収益性が低迷し、グローバル市場での競争力が弱まっていることが挙げられます。2024年に向けて、日本企業がこの状況を打破し、持続可能な成長を実現するためには、コーポレートガバナンスの改革が不可欠だという認識が広まっています。特に経済産業省が発表した「稼ぐ力」の強化に向けたガバナンス改革に関する資料では、企業が直面する具体的な課題とその解決策が示されています。 本記事では、この資料を基に、日本企業が抱えるコーポレートガバナンスの課題や、新しい具体例、統計データを導入し、より詳細な分析や洞察を提供します。また、最新の業界トレンドや課題に加え、実践的なアドバイスを通じて、日本企業が持続的な成長を遂げるための戦略を探求します。 ---
コーポレートガバナンス改革の背景と重要性
日本企業の「稼ぐ力」の停滞
1990年代以降、日本企業は旺盛な国内投資から貯蓄超過主体へと転じ、投資が停滞する一方で、内部留保が増加するという現象が続いています。これにより、企業は新たな成長エンジンを見いだせず、収益性が低迷しています。特に、日本企業のROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)は、欧米企業と比較して低い水準で推移しており、グローバル市場における競争力の低下が顕著です。
統計データによる分析
例えば、2022年のデータによると、日本企業の平均ROEは約6〜7%にとどまり、米国企業の15%を大きく下回っています。また、PBRも1倍を割り込む企業が多く存在し、投資家からの評価が低い状況が続いています。これは、株主資本の効率的な活用が不十分であることを示しており、企業価値の向上にはコーポレートガバナンスの強化が不可欠となります。
コーポレートガバナンス改革の必要性
このような背景から、経済産業省は「稼ぐ力」を強化するためのガバナンス改革を提唱しています。その中で、特に重要視されているのが、「価値創造経営」と「バックキャスト型長期経営戦略」です。これにより、企業は短期的な利益追求から脱却し、長期的な視野で持続可能な成長を目指すことが求められています。 具体的には、次のようなガバナンス改革が提案されています。 1. **取締役会の実効性向上**: 経営陣の選任・解任機能を強化し、企業のリーダーシップを強固にする。 2. **事業ポートフォリオマネジメントの強化**: 資本の効率的な配分を促進し、無形資産への投資を強化する。 3. **人的資本経営の推進**: 労働生産性の向上を目指し、従業員のスキルや知的資本を最大限に活用する。 ---
最新のコーポレートガバナンストレンドとその影響
資本市場改革と企業への影響
資本市場改革は、企業に対する規律を強化し、投資家や株主に対する透明性を向上させることを目的としています。これにより、企業は短期的な利益追求から脱却し、持続可能な成長を目指すための長期的な経営戦略を策定する必要があります。 注目すべきは、**GX(グリーントランスフォーメーション)**や**DX(デジタルトランスフォーメーション)**といった社会課題解決型の投資が、今後の企業成長の鍵を握るという点です。特に、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた取り組みや、デジタル技術の導入による業務効率化が、企業の競争力を強化する要素として位置付けられています。
具体例:日立製作所のDXとGX推進
日立製作所は、DXとGXを両輪とした成長戦略を打ち出し、グローバル市場での競争力を強化しています。特に、IoTプラットフォーム「Lumada」を活用したデジタルソリューションの提供や、エネルギー分野でのカーボンニュートラル技術の開発が注目されています。これにより、日立は2022年度に前年比20%以上の成長を達成し、持続可能な成長を実現しています。
労働生産性の低迷と人的資本経営の重要性
OECD加盟国中で、日本の労働生産性は長期にわたり低迷しています。過去10年間で、時間当たりの労働生産性が20位から30位に低下しており、これが企業の競争力低下の一因となっています。特に、サービス業や非製造業においては、デジタル技術の導入が遅れ、生産性向上の余地が大きいとされています。
統計データによる比較
OECDの2021年のデータによると、日本の労働生産性は米国の約60%にとどまっており、ドイツやフランスといった主要欧州諸国とも大きな差があります。この生産性の差は、企業の競争力に直結しており、特にグローバル市場での日本企業の立ち位置を脅かす要因となっています。
取締役会の役割と経営戦略への関与
コーポレートガバナンス改革の一環として、取締役会の役割が一層重要視されています。取締役会は、経営戦略の大枠を示し、執行側に対してリスクを取ることを促す役割を担います。これにより、企業はより大胆な経営判断を下すことが可能となり、結果的に中長期的な企業価値の向上が期待されます。 ---
コーポレートガバナンス課題解決のためのアプローチ
バックキャスト型長期経営戦略の重要性
バックキャスト型の経営戦略とは、将来的な目標を明確にし、そこから逆算して現在の取り組みを計画する方法です。このアプローチは、コーポレートガバナンス改革の中心的な要素とされており、特に社会課題解決に向けた中長期の価値創造戦略が求められています。
具体例:トヨタ自動車のカーボンニュートラル戦略
トヨタ自動車は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げ、その達成に向けた具体的なロードマップを策定しています。この目標を逆算し、現在では電動車や水素燃料電池車の開発に注力しており、環境負荷を低減することを通じて企業価値の向上を目指しています。
事業ポートフォリオマネジメントの重要性
事業ポートフォリオマネジメントとは、企業が複数の事業や投資案件を持つ場合、それらを最適に管理し、資源を効率的に配分する手法です。これにより、企業はリスク分散を図りながら、成長が期待される分野への投資を加速させることが可能となります。
具体例:ソフトバンクグループのポートフォリオ戦略
ソフトバンクグループは、投資ポートフォリオの管理を通じて、成長性の高いスタートアップ企業への投資を行っています。特に、AIやロボティクス分野での投資が注目されており、これによりソフトバンクは新たな成長エンジンを確保しています。2021年度には、これらの投資が大きな収益を生み出し、グループ全体の成長に寄与しました。
人的資本経営の推進
人的資本経営は、企業が従業員のスキルや知識を最大限に活用し、組織全体の生産性を向上させる経営手法です。特に、日本企業は労働生産性の低迷に直面しているため、人的資本の強化が急務です。これには、従業員のスキルアップやキャリア開発、リーダーシップの育成が含まれます。
具体例:ユニクロの人的資本経営
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、人的資本経営に注力しており、従業員の多様性やダイバーシティ推進を通じて、組織全体の生産性を向上させています。特に、グローバル展開を進める中で、異文化理解やリーダーシップの育成が重要な要素となっており、これにより企業全体の競争力が強化されています。 ---
コーポレートガバナンス改革における落とし穴
形式主義に陥るリスク
コーポレートガバナンス改革が形式的な対応にとどまってしまう危険性があります。多くの企業が、ガバナンス・コードの要件を形式的に満たすことに集中しすぎるあまり、実質的な経営改革が行われていないケースが散見されます。例えば、取締役会の形式的な運営や、形だけの社外取締役の選任が行われている企業も少なくありません。
統計データによる分析
日本取締役協会の調査によると、2023年時点で社外取締役を導入している企業の割合は90%を超えていますが、その多くが「監視役」としての役割にとどまっており、経営戦略に積極的に関与するケースは少数です。このような形式主義に陥ると、実質的な経営改革が進まず、企業価値の向上が遅れるリスクがあります。
執行側のリーダーシップの弱体化リスク
さらに、コーポレートガバナンス改革が進む中で、社外取締役の役割が過度に強調され、執行側のリーダーシップが弱体化するリスクもあります。経済産業省の資料でも、取締役会と執行側が協力し合うことで、効果的なガバナンス体制が構築されるとされています。したがって、取締役会が執行側のリスクテイクを促進し、経営改革を後押しする役割を果たすことが求められています。 ---
課題解決に向けた重要ステップ
長期ビジョンと経営戦略の明確化
企業がコーポレートガバナンス改革を成功させるための第一歩は、自社の長期ビジョンや経営戦略を明確にすることです。このビジョンを基に、取締役会や経営陣が一体となってガバナンス体制を強化することが重要です。 1. **取締役会の構成見直し**: 取締役会の役割を再評価し、経営戦略に積極的に関与する体制を構築する。 2. **社外取締役の選任基準の明確化**: 社外取締役が形式的な存在にとどまらず、企業戦略に貢献できるような基準を設ける。
ガバナンス改革の進捗評価と改善
ガバナンス改革の進捗状況を定期的に評価し、改善策を講じることが不可欠です。 1. **取締役会の実効性評価**: 定期的に取締役会のパフォーマンスを評価し、改善点を特定する。 2. **事業ポートフォリオの見直し**: 定期的な事業ポートフォリオの見直しを行い、資本コストや資本収益性を精査する。 ---
まとめ:コーポレートガバナンス改革の重要性と将来の展望
コーポレートガバナンス改革は、日本企業が「稼ぐ力」を取り戻し、持続的な成長を遂げるために不可欠な要素です。特に、取締役会の役割の強化や、事業ポートフォリオの適切な管理、人的資本経営の推進は、企業価値の向上に直結します。 Photo by Suzie Kim on Unsplash
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