2024/12/28
日本企業のコーポレートガバナンス改革:実効性向上への道筋
日本企業における「稼ぐ力」とガバナンス改革の新たな展開
経営環境が急速に変化する中、日本企業の「稼ぐ力」の強化は喫緊の課題となっています。日本企業の収益性は海外企業と比較して低い水準に留まっており、この状況を打破するためには、コーポレートガバナンスの実質的な強化が不可欠です。とりわけ、PBR(株価純資産倍率)の低迷は、将来の成長期待の低さを示唆する深刻な問題として認識されています。
近年の調査によれば、日本企業のコーポレートガバナンスは着実に進展を見せています。たとえば、プライム市場上場企業における独立社外取締役の選任比率は98%を超え、指名委員会・報酬委員会の設置も9割を超えるなど、体制面での整備は大きく前進しています。しかしながら、こうした形式面での整備が必ずしも企業価値の向上に直結していないという課題も浮き彫りになってきています。企業価値の持続的な向上を実現するためには、コーポレートガバナンスの実質的な機能強化が不可欠です。近年の調査によれば、形式的な整備は着実に進んでいるものの、その実効性についてはさらなる向上の余地が指摘されています。
特に注目すべきは、企業の約6割が「中長期的な経営戦略に関する議論」を取締役会の実効性評価における主要な課題として挙げている点です。この状況は、日本企業のガバナンス改革が新たな段階に入っていることを示唆しています。
コーポレートガバナンス改革の現状と課題
コーポレートガバナンスは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けた基盤となるものです。これまでの日本企業におけるコーポレートガバナンスの取り組みは、確かに一定の成果を上げてきました。例えば、荏原製作所や味の素などの企業では、コーポレートガバナンスを経営戦略の重要な柱として位置づけ、実質的な改革を進めることで企業価値の向上を実現しています。
荏原製作所の事例では、監督機能の不全を機に早期から「守り」のガバナンス改革に着手し、その後「攻め」のガバナンスへと重点を移行させました。具体的には、ROIC経営を導入し、それを知財ROICや生産ROICにまで発展させるなど、独自の取り組みを展開しています。また、味の素グループでは、組織の縦割り化を打破するため、意識的に取締役会や経営会議において外部識者を招聘し、多様な視点を取り入れる工夫を行っています。プライム市場上場企業においては、独立社外取締役の選任比率が98%を超え、指名委員会・報酬委員会の設置も9割を超えるなど、体制面での整備は着実に進展しています。
しかしながら、現状には重要な課題も存在します。企業の経営者からは「CGコードのコンプライが目的化している」との指摘があり、形式的な対応に留まっているケースも少なくありません。より本質的な課題として、ガバナンスを企業戦略の一部として捉え、自社にとって最適な形を追求する議論が十分になされていないことが挙げられます。
実効性あるガバナンスの実現に向けて
ガバナンスの実効性を高めるためには、形式的な体制整備にとどまらない、包括的なアプローチが求められます。経済産業省の実態調査によれば、多くの企業が形式的な対応から実質的な機能強化へと軸足を移す必要性を認識しているものの、その実現に向けては様々な課題に直面しています。
とりわけ重要なのは、取締役会がその本来の機能を十分に発揮できる環境を整備することです。従来の日本企業の取締役会では、個別の業務執行の決定に多くの時間が割かれ、中長期的な経営戦略や企業価値向上に向けた本質的な議論が十分になされていないケースが少なくありませんでした。この状況を改善するためには、取締役会の役割や機能を改めて見直し、より戦略的な議論に重点を置く体制へと転換していく必要があります。
具体的な改善策としては、以下のような取り組みが挙げられます。まず、取締役会の議題設定において、中長期的な経営戦略や事業ポートフォリオの最適化といった重要テーマに十分な時間を確保することです。現状では、取締役会で事業ポートフォリオについて年1回以上定期的に議論している企業は約半数に留まっており、この比率を高めていく必要があります。
まず重要なのは、取締役会における戦略的議論の充実です。調査によれば、取締役会で事業ポートフォリオについて年1回以上定期的に議論している企業は約半数に留まっています。また、事業部門・セグメントごとの資本コストを算出している企業は約2割、資本収益性を算出している企業でも約3割にとどまっています。
さらに、CEOの評価・選任プロセスの強化も重要です。現状では、指名委員会において現職CEOのパフォーマンス評価を行っている企業は約2割に過ぎません。この数字は、ガバナンスの実効性向上に向けて取り組むべき重要な課題の一つを示しています。
経営者に求められる新たな対応
今後の企業経営において、コーポレートガバナンスは単なるコンプライアンスの枠を超えて、企業価値創造の基盤として捉え直す必要があります。この転換を実現するためには、経営者自身が主体的にガバナンス改革を推進していく姿勢が不可欠です。
具体的な取り組みの一つとして、経営者報酬制度の改革が挙げられます。従来の日本企業では、固定報酬の比率が高く、業績連動性が低いことが指摘されてきました。しかし、近年では変化が見られ、大企業のCEOの変動報酬比率は約6~7割、長期インセンティブ報酬(主に株式報酬)比率は約3割まで上昇しています。これは、欧米企業の水準には及ばないものの、着実な進展として評価できます。
また、取締役会の実効性評価も重要な要素です。現状では、取締役会以外を実効性評価の対象としていない企業が約半数を占めており、委員会や取締役個人を評価対象としている企業は約2~3割にとどまっています。より包括的な評価体制を構築することで、ガバナンスの実効性を高めていく必要があります。
さらに、CEOの選解任や後継者計画についても、より体系的なアプローチが求められます。指名委員会において、現職CEOのパフォーマンス評価を行っている企業は約2割に過ぎません。この数字は、多くの企業でCEOの評価プロセスが十分に確立されていないことを示唆しています。特に注目すべきは、経営者報酬の構造改革です。日本企業の経営者報酬における変動報酬比率は約6~7割、長期インセンティブ報酬比率は約3割まで上昇しており、中長期的な企業価値向上へのインセンティブ設計が進んでいます。
実効性の高いガバナンス体制の構築には、以下の要素が重要となります:
- 価値創造ストーリーの明確化と実行
中長期的な企業価値向上に向けた明確なビジョンと戦略の策定が不可欠です。この際、投資家との建設的な対話を通じて、価値創造ストーリーを磨き上げていく姿勢が求められます。 - 取締役会の機能強化
経営戦略や事業ポートフォリオに関する実質的な議論の充実が必要です。特に、資本コストを意識した経営判断や、事業ポートフォリオの最適化に向けた議論の定期的な実施が重要となります。 - モニタリング機能の実質化
CEOの評価・選任プロセスの確立や、実効性のある取締役会評価の実施など、監督機能の強化が求められます。
今後の展望:持続的な企業価値向上に向けて
コーポレートガバナンス改革は、今後さらに深化していくことが予想されます。特に、グローバルな競争環境の中で企業価値を持続的に向上させていくためには、より実効性の高いガバナンス体制の構築が不可欠となっています。
その中で注目すべき一つの動向が、取締役会における独立社外取締役の役割の進化です。現在、プライム市場上場企業の約20%が取締役会の過半数を独立社外取締役で構成していますが、この比率は今後さらに上昇することが予想されます。ただし、単に比率を高めれば良いわけではありません。重要なのは、独立社外取締役が実質的な監督機能を発揮し、企業価値向上に向けた建設的な提言を行える環境を整備することです。
実際、一部の先進的な企業では、独立社外取締役に対する支援体制の強化や、経営情報へのアクセス改善、定期的な研修機会の提供など、実効性を高めるための様々な取り組みを実施しています。また、独立社外取締役と経営陣との間の定期的な対話の場を設けるなど、コミュニケーションの充実を図る動きも見られます。
資本効率の向上に向けた取り組みも重要な課題です。現状では、事業部門やセグメントごとに資本コストを算出している企業は約2割、資本収益性を算出している企業は約3割にとどまっています。この状況を改善し、より精緻な事業評価や投資判断を行える体制を整備していく必要があります。
また、投資家との対話の質の向上も重要な課題となっています。実質株主の情報開示制度の整備や、バーチャル株主総会の活用など、対話の実効性を高めるための制度的な整備も進められています。これらの仕組みを効果的に活用しながら、投資家との建設的な対話を通じて企業価値向上につなげていくことが求められます。特に重要なのは、形式的な対応から実質的な機能強化へと軸足を移していくことです。そのためには、以下のような取り組みが求められます。
まず、取締役会における議論の質の向上です。中長期的な経営戦略や事業ポートフォリオに関する実質的な議論を定期的に行い、その実効性を高めていく必要があります。また、社外取締役の機能強化も重要です。現在、プライム市場上場企業の約20%が取締役会の過半数を独立社外取締役で構成していますが、この比率は今後さらに上昇することが予想されます。
さらに、経営者の評価・報酬制度の高度化も進んでいくでしょう。特に、中長期的な企業価値向上へのインセンティブを強化する方向で、報酬構造の見直しが進むことが期待されます。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも、コーポレートガバナンスの重要性は一層高まっています。気候変動対応やサステナビリティへの取り組みなど、長期的な視点での経営判断が求められる中、取締役会の監督機能の強化は不可欠です。実際、多くの機関投資家が、投資判断においてガバナンスの質を重要な評価要素として位置づけており、この傾向は今後さらに強まることが予想されます。
人的資本経営の観点からも、ガバナンスの実効性向上は重要な課題です。経営人材の育成や、多様性の確保、サクセッションプランの策定など、中長期的な企業価値向上に向けた人材戦略の監督においても、取締役会の役割は極めて重要となっています。
コーポレートガバナンス改革は、決して一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、継続的な改善の積み重ねを通じて、着実に前進させていくことが重要です。そのためには、各企業が自社の状況や課題を適切に把握し、実効性の高いガバナンス体制を構築していくことが不可欠です。
特に重要なのは、形式的な対応に終始することなく、実質的な企業価値向上につながる改革を推進することです。その際には、グローバルなベストプラクティスを参考にしつつも、自社の特性や状況に応じた最適な形を追求していく姿勢が求められます。
こうした取り組みを通じて、日本企業の「稼ぐ力」を強化し、持続的な企業価値の向上を実現していくことが求められています。それは同時に、日本経済全体の活性化にもつながる重要な課題であり、その実現に向けて、経営者のリーダーシップと、ステークホルダーとの建設的な協働が不可欠となっています。
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