Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2024/3/12

2023年後継者問題の最新動向:脱ファミリー化が加速する日本企業の事業承継

後継者問題の新局面:脱ファミリー化が加速する日本企業

日本企業の経営課題として長年注目されてきた後継者問題。2023年、この問題は新たな局面を迎えています。帝国データバンクの最新調査によると、後継者が「いない」または「未定」とする企業の割合(後継者不在率)が53.9%と過去最低を記録しました。一見、問題が改善されているように見えるこの数字。しかし、その裏には日本企業の事業承継における大きな構造変化が隠されています。

驚くべき「内部昇格」の台頭

最新の調査で最も注目すべき点は、事業承継の方法として「内部昇格」が35.5%と初めてトップになったことです。従来、日本企業の事業承継といえば「同族承継」が主流でした。しかし、この調査結果は、日本企業が急速に「脱ファミリー化」へと舵を切っていることを示しています。

なぜ今、「脱ファミリー化」なのか?

この傾向の背景には、いくつかの要因が考えられます:

  1. グローバル競争の激化: 国際的な競争環境の中で、血縁よりも能力重視の経営者選定が求められている。
  2. 専門性の高まり: 技術革新やデジタル化の波の中で、専門知識を持つ人材の重要性が増している。
  3. 価値観の変化: 若い世代を中心に、家業を継ぐことへの抵抗感が高まっている。
  4. M&Aの普及: 事業承継の選択肢として、第三者への譲渡やM&Aが一般化している。

地域差から見える日本の事業承継の実態

後継者問題の様相は、地域によって大きく異なります。例えば、三重県の後継者不在率は30.2%と全国最低水準である一方、鳥取県は71.5%と最も高い水準にあります。

事例研究:三重県vs鳥取県

三重県の成功モデル
三重県の低い不在率の背景には、地域金融機関による密着した支援体制があります。また、比較的安定した経営環境が、子息など親族への事業承継をしやすくしている可能性があります。

鳥取県の課題
一方、鳥取県の高い不在率は、地域経済の構造的な問題を示唆しています。人口減少や若者の流出が著しい地域では、そもそも事業を継ぐ候補者が少ないという現実があります。

業種別の特徴:自動車ディーラーと化学工業の対比

業種によっても後継者問題の様相は大きく異なります。例えば、自動車ディーラーの後継者不在率は66.4%と最も高い一方、化学工業・石油製品等製造業は37.6%と最も低くなっています。

この差は何を意味するのでしょうか?

  1. 資本集約度: 化学工業は大規模な設備投資が必要で、個人での事業承継が難しい傾向にあります。そのため、早くから組織的な承継計画が立てられやすい。
  2. 業界の将来性: 自動車産業はEV化やMaaSの台頭など、大きな変革期にあります。この不確実性が事業承継を躊躇させる要因になっている可能性があります。
  3. 専門性の違い: 化学工業は高度な専門知識が必要で、世襲よりも能力主義が浸透しやすい環境にあります。

事業承継の新たなトレンド:「ポスト承継」時代の到来

後継者不在率の低下は喜ばしいニュースですが、新たな課題も浮き彫りになっています。それは「承継後」の経営サポートの重要性です。

「後継者難倒産」の増加

2023年1-10月の「後継者難倒産」は463件と、過去最多ペースで推移しています。これは、単に後継者を決めるだけでは不十分であることを示しています。

事例:スタジオジブリの承継問題

アニメーション界の巨匠、宮崎駿監督の引退と復帰を繰り返すスタジオジブリの事例は、創業者の強い個性と後継者育成の難しさを象徴しています。この問題は、多くの中小企業でも同様に存在しているのです。

未来予測:2030年の事業承継はこうなる

  1. AIによる経営者マッチング: AIが企業の財務データや業界動向を分析し、最適な後継者候補を提案する時代が来るでしょう。
  2. 仮想空間での事業承継トレーニング: メタバースなどの仮想空間で、実際の経営状況をシミュレーションしながら後継者を育成する手法が一般化するかもしれません。
  3. 事業承継の「サブスクリプション化」: 特定の企業に縛られず、複数の企業の経営を一定期間ずつ担当する「経営のサブスクリプション」モデルが登場する可能性があります。

経営者の皆様へ:今すぐ取るべきアクション

  1. 後継者候補の多様化: 家族や社内だけでなく、社外の人材も含めて幅広く候補を検討しましょう。
  2. 早期からの計画立案: 最低でも5年、理想的には10年前から事業承継の計画を立て始めることをおすすめします。
  3. デジタルスキルの強化: 後継者にはデジタル技術の理解が不可欠です。自社のDX推進と並行して、後継者のデジタルスキル教育を行いましょう。
  4. 外部アドバイザーの活用: 事業承継は感情的になりがちです。客観的な視点を持つ外部のアドバイザーを積極的に活用しましょう。
  5. 「承継後」のサポート体制構築: 承継直後の3年間は特に重要です。メンター制度の導入や定期的な経営チェックの仕組みを整えましょう。

まとめ:事業承継は「バトンタッチ」ではなく「共創」の時代へ

後継者問題は、単に経営者を交代させることではありません。それは企業の持続可能性を高め、新たな価値を創造するチャンスなのです。「脱ファミリー化」の流れは、日本企業に多様性と革新をもたらす可能性を秘めています。

しかし、その一方で「承継後」のサポートの重要性も忘れてはいけません。事業承継を「バトンタッチ」ではなく、前経営者と後継者が共に未来を創る「共創」のプロセスと捉え直す必要があるでしょう。

日本企業の未来は、この事業承継という重要な局面をどう乗り越えるかにかかっています。経営者の皆様、今こそ行動を起こす時です。あなたの決断が、日本経済の未来を左右するかもしれません。

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