Audit Plus 高橋公認会計士事務所
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2026/1/22

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⚡ Executive Summary(30秒でわかる要点)

  • 【着眼】 人的資本は「管理すべきコスト」から「企業価値を生む最大の無形資産」へ。投資家は、PL上の費用ではなく、将来のキャッシュフローを生む源泉として貴社の「人」を見ています。
  • 【勝機】 統合報告書の発行企業数は2010年の23社から2021年には716社へと30倍以上に急増。人的資本をロジカルに語れる企業こそが、資本市場から選別され、高いPERを勝ち取る時代です。
  • 【一手】 単なるデータ開示に留まらず、ROIC(投下資本利益率)と人材戦略を紐付ける「逆ツリー分析」を導入し、経営戦略と人材投資の因果関係を「独自のストーリー」として構築すべきです。

「人件費」という呪縛を解き、企業価値のエンジンへ

経営者として、日々「人」に関する投資判断に頭を悩ませていることとお察しします。しかし、いまだに多くの日本企業において、教育研修費や採用費は「利益を削るコスト」として扱われています。これは、財務会計上の制約が生んだ大きな誤解です。今、資本市場が求めているのは、その「コスト」がいかにして将来の競争優位性を築き、ROI(投資対効果)として跳ね返ってくるかという、経営者自身の言葉による確信に満ちた説明です。

人的資本の可視化とは「未来の収益構造」の設計図である

人的資本の可視化は、単なる人事データの公表ではありません。それは、貴社のビジネスモデルがいかにして価値を創造し続けるのかを示す「経営の設計図」そのものです。例えば、DXを推進するために外部専門人材を20%増員したとしましょう。そのアクションが、いかにして「新事業の展開」を加速させ、最終的に「売上高総利益率の向上」や「ROICの改善」に繋がるのか。この因果関係をロジカルに繋ぐことこそが、参謀としての私の提案する「統合的なストーリー」です。

事業戦略視点:ROIC逆ツリーで「人の動き」を財務に翻訳する

投資家との対話を深化させるためには、人的資本指標を財務指標のドライバーとして位置づける必要があります。例えば、生産現場の効率化を目指すなら、「労働安全衛生への取組」が「休業災害度数率」を下げ、それが「稼働率の向上」を経て「総資産回転率」を改善させるというロジックです。2021年には健康経営度調査への回答企業が2,869社に達するなど、先進企業はすでに「従業員の健康」をリスク管理ではなく、生産性向上のための戦略投資として可視化し始めています。

財務・リスク視点:TCFDの枠組みを転用し、強靭な組織を証明する

人的資本の開示構造には、すでに資本市場で浸透しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の4つの柱(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)を転用するのが最も効率的かつ効果的です。特に「戦略」の項目では、単に「研修時間を20%増やす」といったインプット指標だけでなく、それによってどのようなスキルが獲得され、事業の持続可能性がどう高まったかというアウトカムを強調すべきです。これが、不確実な市場における貴社の「組織の強靭性(レジリエンス)」の証明となります。

事例から学ぶ成功法則:700社超が挑む「対話の質」の変容

かつて、非財務情報の開示は「おまけ」に過ぎませんでした。しかし、統合報告書を発行する企業が700社を超えた今、勝負の分かれ目は「比較可能性」と「独自性」のバランスにあります。ある成長企業では、女性管理職比率などの「比較可能な指標」で最低限の規律を示しつつ、自社独自の「専門スキル保有者数」や「エンゲージメントスコアと離職率の相関」を戦略的に開示することで、競合他社に対する参入障壁の高さを投資家に強く印象付けることに成功しています。

「見えない資産」を語る勇気が、貴社のPERを押し上げる

人的資本の可視化は、一度に完璧を目指す必要はありません。大切なのは、経営者である貴方が「人を最大の資本」と信じ、その投資とリターンの関係を自らの言葉で語り始めることです。最初は「できるところからの開示」で構いません。外部からのフィードバックを糧に、人材戦略を磨き上げる循環(サイクル)を回し始めること。その一歩が、市場からの信頼を勝ち取り、貴社の企業価値を次なるステージへと押し上げる唯一の道です。

今回ご紹介した内容は全体像の一部に過ぎません。貴社の固有の状況に合わせて、この人的資本の可視化を最大限に活用し、企業価値向上に繋げるための具体的なロードマップについては、ぜひ一度ご相談ください。

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