Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2025/1/27

AIが変える財務報告の未来:KPMG調査から読み解く変革の波

はじめに

近年、人工知能(AI)の進化は目覚ましく、ビジネスのあらゆる領域でその影響力を増しています。特に経理財務部門においては、AIによる業務プロセスの変革が急速に進んでおり、その波は世界中に広がっています。KPMGインターナショナルが実施した調査によると、既に多くの企業が財務報告プロセスにAIを導入しており、近い将来、その普及はさらに加速すると予測されています。本記事では、KPMGの最新調査結果に基づき、AIが経理財務部門にもたらす変革の実態と、企業がこの変化をどのように捉え、対応していくべきかを深掘りしていきます。 今回の調査は、2024年4月と9月の2回にわたり実施されました。当初は10の主要市場を対象としていましたが、2回目の調査では、対象範囲を世界23の先進国および新興市場へと拡大し、より広範な視点からAIの導入状況を分析しています。この結果、わずか半年という短期間で、AIの進歩が著しいことが明らかになりました。以前は財務報告プロセスに限られていたAIの活用が、財務管理、リスク管理、税務管理など、経理財務の幅広い分野に拡大していることが判明しました。さらに、生成AIのような新しい技術も急速に導入が進み、多くの企業がその可能性に注目しています。 しかし、AI導入の進捗度には地域差も見られます。先進国ではAIの活用が進んでいますが、新興国では導入が遅れる傾向にあります。それでも、その差は縮まりつつあり、AIは世界的なトレンドとして、あらゆる経理財務チームに影響を与え始めています。AI導入の背景には、プロセスの高速化、効率化、より詳細なデータ分析、精度の向上、予測力の向上など、多くのメリットが挙げられます。これにより、経理財務スタッフはより付加価値の高い業務に集中できるようになり、組織全体のROI向上に貢献することが期待されています。 一方で、AI導入には障壁やリスクも存在します。しかし、調査結果によれば、AI導入済み企業の多くが期待以上のROIを達成しており、導入初期段階の企業でも同様の傾向が見られます。このことから、AI導入には大きな可能性があり、今後もその勢いは加速していくと予測されます。本記事では、これらの課題やリスクを克服し、AI導入を成功に導くための具体的なアプローチについても考察します。また、監査人にはAI制御、AIガバナンス成熟度評価、使用技術の認証など、新たな役割が求められており、監査プロセス内でのAI活用もますます重要になると考えられます。読者の皆様がAIの導入を進める上で、本記事が少しでも有益な情報を提供できれば幸いです。

現状分析

KPMGの調査によると、AIの導入状況は企業によって大きく異なり、その成熟度を「リーダー」「フォロワー」「ビギナー」の3つのグループに分類しています。このフレームワークは、過去6ヵ月間のAI活用状況、今後の3年間の計画、リスク管理、財務管理、会計、予算管理、税務業務、報告、計画など、経理財務分野におけるAIの活用度を基に作成されています。 調査の結果、AI導入の「リーダー」企業は全体の24%にとどまり、「フォロワー」が58%、「ビギナー」が18%でした。この結果から、多くの企業がAI導入の初期段階にあることがわかります。しかし、この成熟度には、企業の売上高、セクター、地域によって大きなばらつきがあります。例えば、売上高が高い企業ほどAI導入が進んでおり、特に50億ドル以上の企業では「リーダー」の割合が高くなっています。セクター別に見ると、金融業界が最もAI導入が進んでおり、次いで製造業、テクノロジー・メディア・通信業界となっています。地域別では、北米が最もAI活用が進んでおり、次いでアジア太平洋、欧州となっています。中南米、中東、アフリカでは、AI導入が遅れている傾向が見られます。 AIは経理財務部門のあらゆる分野で活用されており、特に会計と予算管理の分野で導入が進んでいます。調査対象企業の約3分の2が、会計と予算管理においてAIを試験的に導入または活用しています。また、財務管理やリスク管理においても、半数近くの企業がAIを試験的に導入または活用しています。このように、AIはデータ処理、財務報告の改善から、リアルタイムのインサイトや予測分析まで、幅広い業務で活用され始めています。また、債務管理、キャッシュフロー予測、不正行為検出、信用リスク評価、シナリオ分析など、より高度な業務においてもAIの活用が進んでおり、経理財務部門のパフォーマンス向上に貢献しています。 しかし、税務管理の分野ではAIの活用が遅れており、試験的に導入している企業は全体の3分の1に満たず、約半数はまだ計画段階にあります。この背景には、税務規制の複雑さ、最新データの欠如、柔軟性を欠くレガシーシステム、税務関連の決定の多くが人間の判断に依存している点などが挙げられます。しかし、生成AIの登場により、税務分野でもAIの活用が拡大する可能性が出てきています。AIはチャットボットや自然言語処理から、異常検出やコンピュータービジョンに至るまで、多様な技術で活用されており、特に機械学習、深層学習、生成AIなどの高度技術に大きな価値が見出されています。 調査対象企業は、平均して予算の8.5%をAI技術とソリューションに費やしており、この割合は今後3年間で13.5%に増加すると予測されています。しかし、AI導入には課題もあります。英国の消費財企業のCTOは、AIモデルの開発と精度を妨げるデータ不足を指摘し、豪州大手銀行のCFOは、既存の経理財務システムへのAI統合の難しさを指摘しています。しかし、全体として、AIのROIは期待以上であると報告されており、AI導入は今後も加速していくと予想されます。 AI導入の進捗度を企業規模別に見ると、売上高が50億ドル未満の企業では「ビギナー」の割合が高い一方、100億ドルを超える企業では「リーダー」の割合が高くなっています。これは、大規模な企業ほどAI導入に必要なリソースや専門知識を持っているためと考えられます。また、セクター別に見ると、金融セクターが最もAI導入が進んでおり、次いでテクノロジー・メディア・通信セクター、製造セクターとなっています。これは、これらのセクターがデータドリブンな意思決定を重視し、AI技術の導入に積極的であるためと考えられます。地域別に見ると、北米が最もAI導入が進んでおり、次いでアジア太平洋、欧州となっています。これは、これらの地域がAI技術の開発と導入に積極的に取り組んでいるためと考えられます。 経理財務部門におけるAIの活用は、データセキュリティ、スキルの不足、コストといった障壁に直面していますが、これらの障壁を克服し、AIを最大限に活用することで、業務効率化、コスト削減、データに基づいた意思決定、規制遵守の向上など、様々なメリットを享受することができます。AI導入の進捗度を測る上で、KPMGが提供するAI成熟度評価ツールは、企業が自社の現状を把握し、今後のAI導入戦略を策定する上で非常に有効です。

課題への取り組み方

AIの導入を成功させるためには、まず明確な戦略と計画が必要です。KPMGの調査によると、AI導入の「リーダー」企業は、財務報告だけでなく、経理財務部門全体でAIを活用しており、その割合は「リーダー」以外の企業の3倍に上ります。これらの企業は、AIを単なる業務効率化ツールとしてではなく、ビジネスの変革を推進する戦略的なツールとして捉えています。「リーダー」企業は、会計、リスク管理、税務報告など、幅広い分野でAIを活用しており、その進捗度は、「リーダー」以外の企業を大きく引き離しています。特に生成AIの活用においては、「リーダー」企業が動的な報告書やナラティブ生成、予測モデルやシナリオ生成、ドキュメント管理、コンプライアンス監視と報告、税務資料作成の自動化など、多様な用途に活用しています。 「リーダー」企業は、AIの導入に際して、組織内にAI専門のチームを設置し、人材とスキルを確保しています。また、社外のAIリソースも活用し、AI導入を加速させています。さらに、AIガバナンスを重視し、AIのリスクと管理を財務報告のスコープに含めるなど、責任あるAIの利用を推進しています。これらの企業は、AIの実装と活用をサポートするフレームワークを導入し、AIの倫理的な使用を確保しています。「リーダー」企業は、AIの導入において、投資対効果(ROI)を重視しており、AIの導入事例を積極的にテストし、ROIを検証しています。また、変更管理や教育プログラムを実施し、従業員のAIスキルとイノベーション意識を高めています。 AI導入を成功させるための具体的なアプローチとしては、まず、AIの活用事例を参考にすることが重要です。データ入力や管理プロセスのような基本的な活用事例だけでなく、研究、リスク管理、サイバーセキュリティ、不正検出、予測分析などの高度なタスクにもAIを活用することができます。また、AI導入の際には、データセキュリティ、データ主権、正確性、著作権、知的財産などの問題にも留意する必要があります。AIを完全に経理財務業務に組み込むには、他部門からのサポートだけでなく、経理財務部門内にAIの専門家を配置し、一般の経理財務スタッフ向けのAI活用トレーニングも実施する必要があります。AIを活用して、生産性、エンゲージメント、人材定着率を向上させることを最優先に考えるべきです。 AI導入の障壁を克服するためには、AIガイドラインとガバナンスメカニズムを確立し、規制要件を満たすデジタルプロセスを作成し、AIを促進する最新のITプラットフォームへの移行を早期に開始する必要があります。また、AIの取組みを試験的に導入してROIを検証し、有効性を確認することも重要です。AI導入においては、透明性、持続可能性、監査人との連携も重要な要素となります。AIのアルゴリズムの複雑さとブラックボックスという性質から、透明性が失われる可能性があります。AIによるデータ消費の増加は、二酸化炭素排出量の増加につながる可能性もあります。企業は、これらの課題に対処するための対策を講じる必要があります。また、AIガバナンスの成熟度評価やAI技術の使用に関する第三者機関による認証など、監査人からのサポートを求めることも有効です。 AI導入のROIを高めるためには、AIのメリットを最大限に活用する必要があります。AIは、データ精度を向上させ、より深いデータインサイトと予測分析を生成することで、より適切な意思決定を支援することができます。また、インサイトを得るまでのスピードを向上させ、コスト削減、効率性と生産性を向上させることができます。さらに、AIは、より高度なスキルを持った人材の雇用にもつながり、人材の誘致と定着にも貢献します。AIのメリットが活用に応じて増大するにつれて、投資収益率も向上します。AI導入に成功した「リーダー」企業は、ROIが期待以上であったと報告しており、AI導入が企業の成長に不可欠であることを示しています。企業は、AIの導入を加速させるためにあらゆる手段を講じ、AIの成果を最大化する必要があります。

今後の展望

AIの進化は今後も加速し、経理財務部門の変革はさらに進むと予想されます。KPMGの調査によれば、今後3年間で、財務報告にAIを導入する企業は大幅に増加すると予測されています。特に生成AIの活用は急速に拡大し、財務報告の作成プロセスを大きく変える可能性があります。現在、10社中4社が既に財務報告作成に生成AIを導入していますが、今後3年間では、ほぼ全ての企業が生成AIを活用するようになると予測されています。生成AIは、動的な報告書やナラティブ生成、予測モデルやシナリオ生成、ドキュメント管理、コンプライアンス監視と報告、税務資料作成の自動化など、幅広い分野で活用されると考えられます。 AIの活用は、従来のAIだけでなく、生成AIも含まれるようになります。生成AIは、従来のAIよりも複雑で、業務プロセスへの組み込みに課題も多いですが、その可能性は非常に大きく、財務報告のあり方を大きく変えるでしょう。しかし、生成AIには、データ主権や知的財産権、著作権などの法的懸念や、バイアスや誤った結果を生み出す可能性など、新たなリスクも伴います。企業は、これらのリスクを認識し、適切な対策を講じる必要があります。また、生成AIの導入には、AIの倫理的な使用を確保するためのフレームワークを構築することも重要です。企業は、AIの活用において、透明性、説明責任、公平性、信頼性、持続可能性を重視するべきです。 AIの活用は、財務報告の迅速化、効率化、精度の向上に貢献するだけでなく、より高度な分析や予測を可能にし、意思決定の質を高めることができます。AIは、リアルタイムのデータ分析や予測分析を通じて、企業がより迅速かつ的確な意思決定を行うことを支援します。また、AIは、経理財務部門のルーティンワークを自動化することで、従業員がより付加価値の高い業務に集中できるようになり、組織全体の生産性向上に貢献します。さらに、AIは、リスク管理や不正検出の分野でも活用され、企業のリスク管理能力を向上させることができます。 AIの進化は、監査のあり方にも大きな影響を与えると予想されます。監査人は、AIの活用を促進する一方で、AIのリスクを管理し、AIの倫理的な使用を確保する役割を担う必要があります。企業は、監査人に対し、AIガバナンスの成熟度評価、AI技術の使用に関する第三者機関による認証、導入準備状況/ギャップ評価などを実施してほしいと期待しています。また、監査人は、監査業務にAIツールを活用し、データ分析、リスク軽減、異常特定、不正検出、予測分析など、監査プロセスの効率化と高度化に貢献することが求められます。さらに、企業は、監査人に対し、AIに関するコミュニケーションを求め、監査業務におけるAIの活用を促進することを期待しています。 AIの導入は、経理財務部門だけでなく、組織全体の変革を促進する可能性があります。AIは、企業がよりデータドリブンな意思決定を行い、より効率的かつ効果的に業務を遂行するための強力なツールとなります。企業は、AIの導入に向けて、明確な戦略と計画を策定し、従業員のAIスキルを向上させ、AIの倫理的な使用を確保するためのフレームワークを構築する必要があります。また、AI導入の際には、データセキュリティ、プライバシー、知的財産権などのリスクを認識し、適切な対策を講じる必要があります。AI導入に成功するためには、経営層の理解と支援が不可欠です。AIは、単なる技術導入ではなく、組織全体の変革を伴うため、経営層はAIの重要性を認識し、積極的に導入を推進する必要があります。 最後に、AIは、企業にとって大きなチャンスであると同時に、大きな課題でもあります。AIを最大限に活用するためには、企業は、AIの進化に合わせて柔軟に対応し、常に最新の技術と知識を習得する必要があります。また、AIの導入においては、倫理的な問題や社会的な影響についても十分に考慮する必要があります。本記事が、AIの導入を検討している企業にとって、少しでも有益な情報を提供できれば幸いです。今後のAIの進化と、企業の変革に注目していきましょう。 ``` Photo by Google DeepMind on Unsplash

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