Audit Plus 高橋公認会計士事務所

2024/9/1

企業における不正会計リスクとCAATの重要性

企業における不正会計の現状と課題

近年、企業会計の不正事件が後を絶ちません。不正会計は企業の信頼を失墜させるだけでなく、市場経済全体に悪影響を及ぼす可能性も孕んでいます。企業は、不正会計を未然に防ぎ、早期に発見するために、効果的な内部統制システムを構築・運用することが求められています。

本稿では、企業が直面する不正会計リスクへの対応策として、近年注目を集めている CAAT(Computer Assisted Audit Techniques:コンピュータ利用監査技法) に焦点を当て、その実践的な活用方法について解説します。特に、高価な専用ソフトを導入することなく、Excel などの汎用的な表計算ソフトを用いた CAAT は、その手軽さから、大企業だけでなく中小企業においても導入が容易な不正対策として期待されています。

不正会計の主な類型

まず、企業が直面する可能性のある不正会計の代表的な類型を以下に紹介します。

  • カラ検収: 物品の納品が行われていないにもかかわらず、実際には検収が行われたように装う不正行為。
  • キックバック: 取引先と担当者が共謀し、架空の取引や水増し請求を行い、その一部を不正な報酬として受け取る行為。
  • 循環取引: 自社が販売した商品や製品を、複数の中間会社を経由して買い戻す取引。取引の実態を偽装し、売上高や利益を水増しするなどの目的で行われます。
  • ビッグバス: 企業が過去に計上した損失を、本来計上すべきでない通常の費用と合わせて処理する不正会計。企業の業績を実際よりも良く見せかけるために用いられます。

Excel を活用した CAAT で解決できる課題

これらの不正会計は、巧妙に隠蔽されているケースが多く、従来の人手に頼った監査では見抜くことが困難な場合があります。しかし、Excel を活用した CAAT を導入することで、これらの不正の兆候を効率的かつ効果的に検出することが可能になります。

例えば、Excel の関数やピボットテーブル機能を活用することで、

  • カラ検収: 調達伝票の発行日、物品の受入日、物品の検収日の間隔が異常に短い取引を抽出する。
  • キックバック: 伝票日付、仕入先、依頼者が同一の調達取引データで、合計金額が切りの良い数字(ラウンド数字)になっている取引を抽出する。
  • 循環取引: 特定の取引先との間で、売買取引が短期間に繰り返し行われているケースを検出する。
  • ビッグバス: 特別損失等に計上されたリストラ損失、構造改革費用等の内容を精査し、不適切な処理を発見する。

といったことが容易に行えるようになります。

会計データ分析の最新トレンド

企業を取り巻く経営環境の変化やテクノロジーの進化に伴い、会計データ分析の手法も日々進化しています。ここでは、最新のトレンドを踏まえ、Excel を活用した CAAT における分析の視点を3つ紹介します。

  1. 「P x Q」を常に意識する: 財務データの多くは、「単価 (Price) x 数量 (Quantity)」で構成されています。単価や数量の異常値を検出することで、不正の兆候を掴むことができます。例えば、標準単価と比較して極端に高い単価で購入されている場合や、過去の販売実績と比較して不自然な数量の販売が行われている場合などは、不正が行われている可能性を疑う必要があります。
  2. 「常識外れ」には要注意: 非現実的な業績や、あまりにも好条件な取引は、不正の兆候である可能性があります。例えば、過去の業績と比較して急激に売上高が増加している場合や、市場金利と比較して異常に低い金利で融資を受けている場合などは、不正が行われている可能性を疑う必要があります。
  3. 「記録と記録の照合」: 異なるシステムや部門で管理されているデータを突き合わせ、データの正確性を検証します。例えば、販売システムの売上データと会計システムの売上データ、あるいは在庫システムの在庫データと棚卸データなどを照合することで、データの改ざんや不正な計上を検出することができます。

これらの視点を踏まえ、Excel の関数や機能を駆使することで、より精度の高い不正会計リスク分析が可能になります。

Excel を活用した CAAT 実践のためのステップ

Excel を活用した CAAT は、専門的な知識やスキルがなくても比較的容易に導入することができます。ここでは、実践的なステップをご紹介します。

1. 分析の目的と対象データの決定

まずは、何のために CAAT を行うのか、その目的を明確にしましょう。目的が明確になれば、自ずと必要なデータも決まってきます。例えば、「カラ検収を防止したい」という目的であれば、調達伝票データ、検収データ、支払データなどが分析対象となります。

2. データの入手と加工

分析対象となるデータが決まったら、実際にデータを入手します。データの形式は、CSV 形式やテキスト形式など様々ですが、Excel にインポートする前に、データの形式や文字コードなどを確認しておくことが重要です。データの加工が必要な場合は、Excel の関数や機能を活用して、分析しやすい形式に加工します。

3. 分析の実施

データの加工が完了したら、いよいよ分析の実施です。Excel の関数や機能を駆使して、不正の兆候を検出していきます。分析手法としては、例えば、特定の条件に合致するデータの抽出、データの集計や平均値の算出、グラフの作成などが考えられます。

4. 分析結果の評価と報告

分析結果に基づいて、不正が行われている可能性を評価します。不正の疑いが強い場合は、さらなる調査が必要となります。分析結果は、報告書にまとめ、経営層などに報告します。

CAAT 実施における落とし穴と対処法

Excel を活用した CAAT は、非常に有効な不正対策ツールですが、いくつかの落とし穴も存在します。

1. データの網羅性と正確性

分析対象となるデータが、本当に必要なデータの全てを網羅しているのか、また、データ自体に誤りがないのかを確認することが重要です。データが不十分であったり、誤ったデータに基づいて分析を行ってしまうと、誤った結論を導き出す可能性があります。

2. 分析手法の限界

Excel を活用した CAAT は、汎用的なツールであるため、不正の種類によっては、検出が難しい場合があります。また、高度な統計分析やデータマイニングなどの専門的な分析手法が必要となるケースもあります。

3. 分析結果の解釈

分析結果から不正の有無を判断する際には、注意が必要です。分析結果が不正の兆候を示唆していたとしても、必ずしも不正が行われているとは限りません。分析結果を慎重に解釈し、必要に応じて追加調査を行うことが重要です。

これらの落とし穴を避けるためには、

  • データの入手元や作成過程を把握する: データの信頼性を担保するために、データの入手元や作成過程を把握し、必要に応じてデータの提供者に確認する。
  • 複数の分析手法を組み合わせる: 特定の分析手法だけに頼らず、複数の分析手法を組み合わせることで、より精度の高い分析結果を得る。
  • 専門家の知見を活用する: 必要に応じて、会計監査や不正調査の専門家に相談する。

などが有効です。

まとめ:不正会計リスクへの対応と今後の展望

企業は、不正会計リスクに対して、絶えず対策を講じていく必要があります。Excel を活用した CAAT は、手軽に導入できる効果的な不正対策ツールとなります。本稿で紹介した実践的なステップや落とし穴への対処法を参考に、ぜひ自社の不正リスク対策に役立ててください。

具体的な行動指針

  1. Excel の関数や機能を習得する: CAAT を実践するために必要な Excel の関数や機能を習得しましょう。
  2. 自社の業務プロセスを分析する: どのような不正リスクが存在するのかを把握するために、自社の業務プロセスを分析しましょう。
  3. 分析結果に基づいて、内部統制の改善を行う: 不正リスクの高い業務プロセスについては、内部統制を強化しましょう。

不正会計リスクへの対応は、企業の持続的な成長のために不可欠です。

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